エオニオーセの思案
もはやこれまで。いったい誰がそう言って膝をつき、最もおぞましく厭うべき外法を編み出したのか。
安らぎの女神オート=ミヌゥを信奉するユマニル族が多くを占める王国では、戦いの術はほとんど重要視されてこなかった。不安定な白地を踏み越えてわざわざ他族が治める国を従えようなどというもの好きもおらず、建国以来国は安寧に固く閉ざされていたし、オート=ミヌゥは戦を求むような神でもなかったからだ。また、強固な武具を作るための資材も不足していたこともあるかもしれない。御盾と五盾の巫女たちへの信頼が厚かったことも、ひとつに挙げられるだろう。
――空が割れた。
人々は口々に叫んだという。安穏の国土の遥か上空で、黒い亀裂が覗いたのだ。呆気に取られて空を見上げるために晒された人々の首は、さぞ良い的であったことだろう。己のために用意された供物であると信じて疑いもしなかった黒い亀裂――影の怪物の群れは、次々に人の首を刈り取っていった。当時の御盾と対の巫女は崩御なされ、また他の巫女たちも続々と倒れ、ユマニル王国は大混乱に陥った。
もはやこれまで。諦めの言葉を吐きながら、その目で未練がましく他者の尊厳を嬲っていたのは、いったい誰だったのだ。
斯くして、ユマニル王国は強力な戦の力を手に入れる。神器と呼ばれた純白の美しい武具とそれを揮う
だが、手に入れた力が人々に絶対的な安堵をもたらすことはなかった。
だから、僕もまた人の道を外れた。
三。
勇猛果敢な数字。
死と隣り合わせの、不吉に立ち向かう数字。
不安定なこの国では、どうしてもそのような象徴が必要だった。目を閉じても目蓋の上から射す剣の煌めき、耳を塞いでも抉じ開ける武勇の聞こえ、その強烈さが。これを体現すべく、三番を背負った部隊に後退は許されない。求められるはただひたすらに恐怖を砕き、我が身を血に染めること。
果たして、狂乱の部隊を作ることは成功した。
父を生物兵器に作り変え、憎しみも争いも知らぬ少女の身を戦いに縛り付け、無垢の少年に穢れることを強いて、その他さまざまな人の生を狂わせてきた。
望まれることを叶えるばかりが救いであったのだろうかと、今もよく考える。
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18/08/17
修正. 21/03/21
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