界獣共の揺籃歌_前編



【リクエスト内容(要約)】
 共有した創作設定をもとにした二次創作小説。

◎性的な意図ではない成人男女の授乳シーン(!?)
◎前編後編でわけておりますが、これだけでも読めます





 体液に塗れた裸体を青白い光がぬらりと照らす。肉と爪の隙間から、体温が漏れ出すような感覚を覚えていた。柔らかな毛布を敷いた牀榻ベッドに横たわりながらどれだけ必死に酸素を取り込んでも全身を血が巡ることはなく、肺腑は凍てつくほどに冷えている。
 それが視覚から齎される錯覚なのか、それとも真実その身が氷のように冷え切っているからなのかは、今の彼には判然としない。
 そこは、深い水底のように青い部屋だった。
 焼成した煉瓦を四面に貼り付け、その上から漆喰で白く塗った汚れひとつない壁が、暗夜においてもどこか仄明るい印象を与える。採光あかりとりのために設けられたのだろう天井近くにある小窓のすぐ下、そこへはひとつの角灯ランタンがかけられているのだが、経年劣化のために薄く濁った火屋ほや硝子がらすの中に灯る炎は驚くべきことに青白い。その炎の揺らめきが純白の壁を波立たせ、まるで深間ふかまから見上げる水面みなものごとき様相を呈しているのだ。

 泡立った唾が気管へ入り込んで、彼は激しく咳込む。その胸を優しく撫でさする滑らかな白い手があった。荒い呼吸も絶え絶えに、彼はぞろりと目玉を動かす。
 彼が身を横たえるすぐ傍らに腰かけているのはひとりの女だ。故郷で一番背が高い者と言われれば彼を指したものだが、その彼をして優に超える巨躯をした女が、ただひとつの荒れも傷もないうつくしい手で彼の赤黒く日焼けした胸を穏やかに撫でている。
 白い腕は長く伸び、まろやかな曲線を描く肩に続く。そして、鎖骨から流れる骨格にぶら下がった大きくとろみのある乳房。青い血管が薄く浮いた脂肪の塊はこれこそが母性の象徴だとでも言わんばかりに形良く、極めて大きく張り出している。そのひとつひとつが網目のない巨大な甜瓜メロンのようだ。きっとよく肥えた乳牛でさえ、これほど立派な乳房は持ち合わせていまい。
 彼の視線に気付いた女が遥か頭上で微笑む気配がして、やがてそうっと身体を俯けた。白い胸の肉が流動して、彼の頬をもたりと包む。
 ずっしりとして見えた乳房は薄く手触りのよいなめし革で密閉された水袋のようで、見た目ほどに重さは感じない。それどころかあまりの柔軟さに天使の羽毛で顔を擽られているかのように錯覚するほどだ。
 甘い熱を宿した肉に縋るように顔を擦り寄せると、女は巨体に相応しい長大な指先で彼の硬い髪をくしけずり、その頭を乳臭い谷間へと迎え入れた。頭全体をすっぽりと包み込んでなお余りある柔らかな谷底は女の微温ぬるい膚とは打って変わって汗ばむような温熱を湛えていて、彼はようやく人心地ついた。

―い、いたい……」

 吐き出そうとした息に代わって、そんな呻き声が漏れる。そう、痛いのだ。どこが痛いのかさえもうよくわからないけれど、ただただ身体が底冷えして寒く、そして堪らなく痛い。
 小さくか弱い悲鳴を聞いた女は彼の頭を掬い上げると、ふにゃりと柔らかい赤子のような唇を目蓋にそっと落とした。湿った感触が薄い皮膚越しに眼球へぴとりと張り付いて、名残惜しそうに離れていく。

「量が足りなかったのね。かわいそうに」

 甘やかすようでいて、どこか幼さを秘めた不可思議な声。女は啄むような口づけを今度は鼻先に贈り、彼の顎を優しく掬う。

―さ、お飲み」

 ―厭だ。そう思った心が嘘であったかのように、彼の身体はぴくりともしない。
 女は彼の両方の頬を軽く押し出して口を開かせると、その咥内に太い管のようなものを差し入れた。ぬめりのある粘液を纏った、ぺったりとした感触を舌に感じる。
 弛緩した顎に抗う力などありはしない。見る間に彼の口中は甘酸っぱいとろみのある液体に満たされた。ほとんど反射的に、彼はそれを飲み干す。
 すると途端に、いったいどんな魔法を用いたものか彼の苦痛は瞬きよりも早く消え去った。跡形もなく、この世の全ての苦しみから解き放たれたかのような高揚感が彼を包む。

「もう、痛くない?」

 女が囁くように訊ねて彼の目を覗く。その瞬間、彼は彼女が自らの母であるかのように錯誤した。
 もちろん、そんな事実は断じてない。彼の母は寒村に相応しく貧相な女で、こんなふうに垢抜けて美しくはなかった。
 だというのに。
 転んでこさえた膝の傷を優しく宥められた、ような。
 熱に苦しみうなされる最中さなかに頭を撫でられた、ような。
 数少ない母との温かな記憶が、全てこの女から贈られたものであったかのような――――。
 いや、むしろ彼女こそが自らの母親なのではあるまいかと感じて、彼は激しく動揺した。彼の母は随分幼い頃に、長く降り続いた雨が引き起こした飢饉で死んだ。その純然たる事実と嘆きの記憶が根底にあるにも関わらず。

「か……かあ、ちゃん……」
「なあに?」

 男の呼びかけに彼女は穏やかに応える。
 ひとたび女を母≠ニ呼べば、胸の奥底から抗い難い親しみが溢れ出して止まなかった。
 幼くして死んだ母。空腹を少しでも誤魔化したくて遺骸から探り当てた乳房をねぶっても、胸骨の浮いた痩せぎすの胸からは乳の一滴も出なかった。

「ああ、母ちゃん……母ちゃん……!」
「どうしたの? ここにいるわ」

 柔らかく豊かな胸に顔を埋めて、彼は咽び泣いた。右手で手繰るようにして淡く色付いた乳輪ごと楕円形をした乳首を頬張ると、乳が張った様子もないのに無数の乳腺からは甘ったるい母乳が嚥下も間に合わないほどに溢れ出して、彼の無精髭を蓄えた顎を伝い落ちる。
 これだけ飲み下しても尽きぬ乳があの頃にあれば、きっと彼の母は死ななかっただろう。あの優しかった母と共に、このの元で無邪気に生きられたのに違いないのに。
 そう思うと、悔しくて寂しくて堪らなかった。
 ちゅばちゅばと音を立て、泣きながら頬をへこませて必死に乳首に吸い付く彼を、彼女は我が子を慈しむ聖母のように抱き寄せた。

「これから、私がおまえのかあさまだからね。うんと甘えていいのよ。お乳だって、好きなだけ飲ませてあげるわ」

 彼女の甘い囁きに、舌で激しく乳頭を舐め潰し啜りながら彼は必死に頷く。ただただ際限のない甘い受容が彼の心身を取り囲んで、かつてないほどに満たされていた。
 短く立った髭から滴る白い乳を指で拭ってやりながら、彼女は彼の筋肉の盛り上がった背中の古傷を手のひらでなぞる。

「でも、おっぱいだけじゃだめよ。こっちも飲まなくちゃ。さ、お口を開けて……」

 白く汚れた顔を仰向けられて、今度こそ彼は苦痛も疲労も消えた身体で雛鳥のように従順に口を開けた。管から注がれる甘酸っぱい液体が、喉をだくだくと滑り落ちる。

「いいこね、ぼうや」

 母が微笑む。頭を撫でてくれる。彼はそうやって彼女に褒められるのが嬉しくて嬉しくて堪らなかった。幸せだった。不遇の子供時代を、今ようやく取り戻し始めていた。

「こんなに脆くて弱い身体で、今までとっても頑張ったのね。でも、もうだいじょうぶよ」
「か、母ちゃん……ん、んむっ、んむっ。ふ、は……っ、母ちゃん、母ちゃん……!」
「ふふ、おいしい? 慌てないでいいのよ」
「あふっ……んくっ、ふ、んむっ……」
「いいこ、いいこ、いいこね。もうなあんにも、こわいことはないからね」

 ―ああ、こんなにも幸いなことはない。

「これからかあさまが、おまえをもっと丈夫に産み直してあげる」

 柔らかな肢体に包まれ、やがてこの母の肚へ還らせてもらえるというのだから。



 採光あかりとりの小窓から、黄味を帯びた光が室内に棚引くように淡く細く射す。夜が明けて束の間の太陽が地表に顔を出したのだろう。
 ふと強かに漂う血のにおいに、彼女は一糸纏わぬ剥き出しの裸体を隠そうともせずにゆらりと振り返る。視線の先、大きく開放された戸口にはひとりの、一見して獣人種と思しき若い男の姿がある。
 いつに受けたものか癒えぬ傷をそこかしこに拵えた褐色の肌に筋肉を隆起させ、若く瑞々しい生命力をなみなみと湛えた青年。彼は見事に赤く長い髪を無造作に垂らしているのだが、今はその髪は毛先に至るまで黒く乾いた大量の血で凝り固まっており、噎せ返るような血臭の発生源はどうやらここかららしい。
 風体や翠玉の隻眼から放たれる眼光の鋭さこそ尋常でないにせよ実に精悍なる美丈夫だが、身体の各所に窺える人ならざるを示すものが彼を単に獣人といった括りでは計れない異形たらしめていた。
 ―まず目につくのは、しなやかな肩口に備えた二対・・の腕だろう。生まれ持った腕とは別に、肩甲骨の辺りから黒々とした二本の腕が伸びている。ほんの幼い子供が純粋な邪悪さでもって人形の腕をもいで別のおもちゃに継いだような、そんな凄まじい違和感を放ちつつも、その腕は新たなる持ち主の意思を受けて癖のある赤髪を鬱陶しそうに背後へ払う。そうして、左右で造りの違う獣の脚をちゃかちゃかと鳴らしながら彼女の元へと歩み寄った。
 まるで合成獣キメラのごとく異質に異質を重ねた姿。
 彼こそ竜の骸より生まれ出でた界獣イネインがひとり、悪名高き力の獣―グリード・フィアスである。

「……また人を食べたの?」

 女の問いに彼は嘲るように鼻を鳴らす。ひとつしかない獣の耳が周囲の気配を探るように頻りに動いている。その片割れが植わるべき頭頂部には歪な角が突き刺さっていた。

「あんなにちいちゃい身体でがんばって生きているかわゆい命なのに。……ただいたずらに虐めるようなそんなひどいこと、かわいそうだわ」
「テメェみてェなデカブツ女と比べりゃ、そりゃ誰だって小せェだろうさ。そういうテメェは、また懲りもせずに家族ごっこか」

 今度こそグリードは笑みに含めた嘲罵ちょうばを口にした。しかしあからさまな嘲弄ちょうろうを受けても女が不快感を示すことはなく、それどころか分別のつかない幼子を見つめる眼差しをして唇を綻ばせる。

「……相も変わらず、すっとろくて張り合いのねェ奴だ」

 それでとうとうグリードは害意の牙を収めた。同族や人間を喰らうことは最早界獣イネインらの本能と言っても差し支えのない習性ではありながらも同族喰い≠ニまで呼ばれ時に忌まれるグリードは、しかし自らが強者と認める者以外にはほとんど食指が動かない。

―で? 今度のガキの具合はどうだよ」

 そんな偏食のきらいがある彼がこの女のもとへ律義に顔を出しに来るのは、彼女がグリードにとって不足のない強者を産み出す・・・・可能性があるからだった。

「さあ……、どうかしら。わからないけど、」

 グリードの思惑を知ってか知らずか、おっとりと受け答えをする彼女の白い美貌が柔らかな陽光を受けて、きらきらと輝く。伏せた長い睫毛に、万感の愛情を満たした慈愛の獣。

「今度こそ、おかあさま≠熄j福をお授けくださるにちがいないわ」

 大きく膨れた腹を撫でて、彼女は陶然と笑みを深めた。その笑顔はやはり、親愛に満ち満ちて甘く美しいのだった。



 山岳がそびえ、樹々が生い茂り、花が咲き乱れ、広大な湖の畔を獣たちがはしゃぎ駆け回る、ありとあらゆる大自然を擁した大地―ヴォルソルト大陸。
 ある者はかの地を神々の大戦の地と謳い、またある者は地上の楽園と呼び、そしてまたある者は不平等を体現した大地と吐き捨てた。

 ヴォルソルト大陸は聖なる女神メーヌリスの献身と猛き勇者の奮闘によって討ち取られし邪竜イーヴァリスの眠る地だ。天高くそそり立つ霊峰エヴラの山頂と地底には竜の骸の一部が秘されていると言われ、大陸各所にはかつて竜の身体であったとも嘯かれる名勝が数々散見される。
 中でも有名なのは大陸の富める西方ゾーリャ地方と貧寒たる東方アルディナ地方を繋ぐ陸路のひとつでもある、竜のあばら骨≠ニ呼ばれる巨大な天然洞窟であろう。
 件の霊峰は大陸のほぼ中央に鎮座し、そこから東西と貧富を丸きり分かつように山脈が連なるのだが、洞窟はその一点をぶち抜く形で水平に横たわっていた。ちょうど、竜が伏しているかのごとくに。
 横長の楕円をした洞窟内部の足場は思いの外平坦だ。一方で側面から上面は抉られたような弧を描き、いったいどのように形成されたものか規則的にでこぼことした隆起が続く。それがまるで真っ直ぐに通る胸骨から幾筋もの肋骨が伸びているように見えるから、竜のあばら骨≠ニ呼ばれるようになった。
 そしてその形状以上に観光客らを喜ばせたのが洞窟内部を東から西へと吹き抜ける雪混じりの風だ。
 東側の山肌は、そこへまともにぶち当たった海風が水分を多量に含んだ上昇気流を絶えず発生させるため、融雪が追いつかずにいつでも純白のヴェールを纏ったようになっている。洞窟を突き抜ける風はその万年雪を道連れに吹くのだが、雪のちらつきが作用してか風声は大いに濁る。ひずんだ激しい風声はさながら猛々しい竜の咆哮を思わせ、それが評判を呼んでその名を満天下に行き渡らせた。
 だが、竜のあばら骨≠ヘ知名度の高さのわりには訪れる者はそう多くはいない。理由は、先にも述べたような山岳地帯ゆえの気象の厳しさにある。
 エヴラが織り成す山脈はどこを切り取っても本当に背が高い。その標高と言ったら、雲を貫いてより高いのである。それが辺り一帯に雨に雪にと激しく移り変わる天候を生み出し、気楽な物見遊山を求める観光客の足を遠のかせた。従って竜のあばら骨≠訪ねるのは健脚と山の気候への深い造詣を併せ持つ者ばかりに限られた。
 しかし、今となってはそんな者たちもほとんど見かけない。この路を往くのは腕に覚えがあってかつ旅慣れた者か、もしくはなんらかの事情で一刻を争うほど先を急ぐ者かに限られる。

 善神と悪神の決戦の地―ヴォルソルト大陸。その霊峰エヴラには竜が眠っている。
 埃被りの、ほとんど御伽噺染みた伝承をいったい誰がまともに信じていただろう。
 人々が時の流れと共に忘れ去った恐怖は、あるとき空想の被膜を割り開き、現実の脅威となって現れた。
 異形の出現に前触れはなかった。大陸中に散らばった竜の遺骸とされるものから突如として現れた化け物界獣イネインは、そう在ることが当然であるかのように地に足をつけたその瞬間から人や家畜を見境なく襲い始めた。
 冒険者たちが言葉通り命を懸けて行った調査の結果、界獣イネイン共は竜の骸から伸びる竜脈から生まれるものであり、その竜脈は大陸全土に張り巡らされているとわかった。
 だが、そんなことがわかったところで人々にいったいなにができて、なんの助けになっただろう。戦う力すら持たぬ人々にとってはどうしようもない恐怖と絶望が増しただけだった。
 それでも人類は、ただ日々を生き延びるしかなかった。

 ―レイとセリニは、そんな苦しみの大地を放浪する冒険者であった。



 世界各地に存在する役場施設、通称便利屋組合ハウス。通常宿屋と併設されるハウスはそれを利用する冒険者にとっては重要な情報収集の場であり、界獣イネイン討伐に奔走し続け疲労した心身を休める憩いの場でもある。
 その食事処の一角で、ふたりの冒険者がひとりぶんの食事を前に向き合っていた。
 ひとりは少女だ。せいぜい十五歳程度であろう。
 小さな頭には月をモチーフにしたフロントレット。ノースリーブの黒いインナーの上から透け感のあるパステルイエローのケープを羽織り、ぴったりフィットしたハーフパンツに健康的な美脚を通して、いかにも踊り子然とした出で立ちだ。
 幼さとも言い換えられる弾けるような若さを持つ娘だが、ひとたびその存在に気付いてしまえばもう目を離せないような実に神秘的で美しい容貌をしている。
 天使の輪を戴いた艶髪は人類未知の海でのみ生息する珊瑚のごとき。真珠色をした柔らかそうな肌の頬と唇はふんわりと淡く色付いている。誰の目から見ても紛うことなき美少女である。恐ろしいのは、その美貌が明らかに発展途上であるとわかる点だろう。このまま歳を重ねていけば目も眩むような美女として花開くことは間違いない。
 そんな鮮やかな珊瑚の娘に対する男は、漂白したような白髪はくはつに血の気の失せた長身痩躯を黒いコートと手袋で覆い隠し、そして傍らには黒い長杖を携えた、なんとも無彩色な姿だ。首に巻き付けた赤いロングマフラーと前髪から覗く青い左目だけが、彼をかろうじて色を知らぬ影の住民でないことを知らしめる。

 重力を知らぬようにふわふわと漂う白いポニーテールを目で追いつつも、先ほど仕入れてきた話を全て話し終えた少女セリニはようやく小作りの桜唇をきゅっと閉ざした。

――――慈愛の獣=H」

 たっぷりと間を開けて問い返された言葉。常日頃起伏の少ない彼の声付きが今ばかりは言葉尻を跳ね上げている。セリニはそれを内心珍しく思いながら、大きく頷いてみせた。

「そう呼ばれるイネイン・フィアスがいるらしいって、最近噂になってるみたい」

 界獣イネインはこの世界に生きる生命体の生態系を模倣し増え続けるという習性を持つ。中でも人間を模倣し、通常の界獣イネインとは並外れた知恵と異能を持つ特異個体はイネイン・フィアス=Aもしくは単にフィアス≠ニ区別された。

「もしかしたら、人間との共存を目指そうとしてるフィアスがいるのかも!」
「ありえない」

 スイートポテトを頬張りながら意気揚々と放った希望を言葉少なに、そして頑なに否定されて、彼女は鮮やかなルビーをそのまま嵌め込んだようなくりくりの大きな目を不機嫌そうにきゅうっとすがめる。

「どうしてそう言い切れるわけ? 現に、レイみたいなフィアスだっているじゃない」

 ――そう、彼女の目の前にいる男レイもまた、イネイン・フィアスと呼ばれる特異個体である。ひょんなことから彼の旅に同行するようになった後で知った事実だ。
 だが、セリニの言葉が示すようにレイは他のフィアスらとはわけが違った。彼は人を襲わない。というよりも、襲いたくない・・・・・・という確固たる意志のもと行動していた。竜から生まれた存在であるゆえに刷り込み的に持つ竜への本能とも呼べる崇拝心を、理性のみで抑えつけながらである。
 セリニにとっては彼の存在こそが界獣イネインにも善なる心を持つ者がいるという証左であるのだが、当のレイにとってはどうやら違うようだった。
 わざわざナイフで切り分けたのに、いつまで経っても手をつけられる様子のないもう半分のスイートポテトを口に運びながらセリニは眉根を寄せる。
 それとも、フィアスである彼だからこそ持てるなんらかの確信があってのことなのだろうか。
 思い煩う彼女の意識を、すぐ横を通った給仕が手にしたさつまいもと肉の炒めものの香ばしいにおいが掻っ攫う。
 ―デザートまで食べておいてなんだけど、追加であれも頼んじゃおうかな。ねえ、どう思う? あたしのお腹?
 すると相談を持ちかけた腹が元気よくくるくる鳴くので、セリニは迷わず手と声をあげて給仕を呼んだ。

 さつまいもは気候が不安定な東部を救った救荒作物だ。当時は雨が降り続いても育つだけが取り柄で味も素っ気なく、煮ても焼いてもどんなに手を尽くしてもがりごりと硬いばかりだったようだが、今は品種改良の甲斐あって蒸かすだけでほくほくと甘い。そんなさつまいもで作った料理は、アルディナ地方全域のハウスの名物である。

 ―閑話休題。
 料理の到着を無言で過ごす質ではないセリニは、レイの切って捨てるような辛辣な返答にもめげずに話題の裾を広げる。

「例のフィアスは砂漠地帯を抜けた先のどこかで集落を築いてて、行き場のない人たちを匿って暮らしてるんだって」
「……まだ続けるのか」

 満面の難色である。だがそれで怯むようならセリニはレイと旅路を共にすることもできなかった。
 構わずなおも口を開きかけたセリニを遮るように、大皿がテーブルにどんと乗せられる。注文していた炒めものだ。甘辛に味付けられた、透き通った茶色いソースが食べやすい大きさにカットされた具材につやつやと絡んで、見ているだけで涎が出る。
 一瞬で料理に気を取られたセリニの後を継いで、この宿の娘だという皿を運んできた妙齢の女が話に加わる。

「お客さんら、例のフィアスに興味があるのかい? それならちょうどいい依頼があるんだけど、聞くだけ聞いてみない?」

 ―女の話はこうだ。
 近頃人々の口の端にしばしば上るようになった慈愛の獣≠フ存在はハウスでも把握していて、その捜索と実態調査という形で依頼を貼り出していたのだという。
 日々の仕事の賜物か薄く筋肉の乗った腕に示されるままにふたりが壁掛けの掲示板を見れば、確かにそのような依頼がある。

 その依頼を、ひとりの男が受けたのだそうだ。

「アルディナの砂漠地帯っつったらひとつしかないだろ? で、砂漠はそりゃ確かに広いけども、調査をして、それで行って帰ってくるぐらいなら一週間程度もあればじゅうぶんなはずじゃないか」

 でも、その男はふた月を過ぎても帰ってこなかったという。
 レイは考え込むように俯けていた頭を上げて、女を見た。

「……その男は駆け出しか?」

 自分こそ冒険者としてはまだ新人のくせして熟練ぶった口を利くレイに、セリニは頬の内側を噛むことで込み上げた笑いを殺す。今はそういう雰囲気じゃない。

「まさか。ぺえぺえ・・・・にこんな仕事任せるわけないだろ。ベテランもベテランよ」

 今、彼女の目の前にいる男もぺえぺえ・・・・なのである。笑ってはいけないと思えば思うほど堪えかねてとうとう咳き込んだセリニを、レイは冷ややかに一瞥した。
 女はややセリニを気にした様子ではありながらも「ここからが依頼の話になるんだけど」と続ける。

「あんたたちさえよければ、その冒険者の捜索と調査の引継ぎをお願いしたいんだ。調査が長引いてるってだけならいいんだけど……万が一砂漠で行き倒れてたり、例のフィアスに、その、酷い目に遭わされてたりするようならさ、心配だろ?」

 詳しい言及は濁して避けたものの、彼女が最悪の事態を思い浮かべているのだろうことは明白だった。ようやく笑いを腹の底に収めたセリニはふと、彼女が不安げに擦り合わせた手に質素な指輪がはまっていることに気付き、思わず声を上げた。

「……その冒険者の人って、お姉さんの恋人さん……だったり?」

 否定しようとしたのだろうか。口を開きかけた彼女は、しかし観念したように力なく笑った。

「……うん、そう。……ごめんね! 冒険者あんたたちが頑張って依頼をこなしてくれてるところに私情を持ち込んだりしてさ。でもあたし……ほんとに心配で」

 努めて快活に振る舞おうとして失敗した彼女は、それでも痛々しい笑顔を浮かべる。

「だってあいつ、『調査ぐらいぱっと終わらせて結婚式の資金を稼いできてやる』とか調子のいいこと言ってさ、全然帰ってこないんだよ……」
「お姉さん……」
「ご、ごめん。お客さんの前でこんな辛気臭い顔、いけないね。ほんとごめん! ここまで話しておいてなんだけど、先を急ぐようならほんとに、ほ、ほんと……気にしないで……」

 冗談めかした歯切れのいい言葉は、しかし最後まで結びきられることなく涙に濡れて沈む。セリニは女の潤んだ瞳を覗き、次いでレイをじっと見つめた。

「レイ……」

 その視線を受けて、レイは軽く嘆息する。

「……明細は?」
「え?」
「正式な依頼なら、依頼書があるだろう。それをくれ」
「あ……! う、うん! ちょっと待ってて! すぐに持ってくる!」

 無愛想に手のひらを上に向けて差し出したレイに、女は飛び上がる勢いで奥へと駆けていく。レイの不器用な優しさに、セリニは微笑んだ。

 ―その後、宣言通り女はすぐさまに依頼書を持ってきた。そしてそれとは別にレイに一枚の小さな紙も差し出す。何度も手に取っているのか手垢がついて端がよれたその紙は、町で客引きをしていた画家に描いてもらったふたりの姿絵だと言う。
 レイに肩をくっつけて一緒に覗き込んだ絵には、無精髭を蓄えた屈強な男にお姫様抱っこをされて照れ臭そうに破顔する女の姿がある。多少の簡略化はされているものの人物の特徴をよく捉えた絵だ。

「いい絵ね」
「うん……、あたしのお守り」

 セリニのなんの含みもない素直な言葉に、女は赤みの差した目元に皺を寄せてくしゃりと笑う。しかしぴくりとも表情を変えないままに絵を眺めるレイに、途端に気まずげな表情を浮かべた。

「あ……、ごめん。少しでも顔のわかるものがあれば調査の助けにもなると思ったんだけど。赤の他人の浮かれ切った絵なんか、持ってらんないよね」
「いや……」

 返却を求めるように差し伸べられた手をやんわりと押し戻し、レイはその絵を懐に慎重にしまい込む。

「誰よりも彼の無事を願うお前の祈りがこもった貴重な品だ。これほど助けになるものもなかろう」
「……はは、そっかな」

 鼻を啜りながらも、レイの思わぬ言葉に女は嬉しげに笑った。



 砂漠と言えば暑いものというイメージを抱かれがちだが、実際は昼夜でかなりの寒暖差がある。ことアルディナ地方の砂漠においては、季節でも気温を大きく左右した。
 その大きな要因となっているのが時期によって方向を吹きわける季節風である。
 アルディナの砂漠を吹く風は東から西へと抜けていくばかりではなく、秋口から春先にかけては冷たく乾燥した風が北地方から吹いてきて異様に冷え込む。そしてその風はなぜか砂漠でだけ吹き荒れる。砂漠以外には全く影響を及ぼさないのだ。
 結果、周囲を平然と森や沼に囲まれたアルディナ地方の砂漠では砂に足を埋めながら、遠くに雪に覆われた山脈を目にすることができた。水が尽きて落命する心配がない点は僥倖と言えるだろう。
 そんな砂漠を、ふたりは黙々と進む。依頼を受けたハウスを発ってここに来るまでに、すでに二日が経過していた。この時期の砂漠が寒いという知識はあったからレイもセリニも防寒具を着込んできたものの、やはり寒い。綿入りの手袋とブーツに包まれた手足の感覚はもうほとんど消えかかっている。
 それでも婚約者を待ち続ける健気な給仕の女のため、懸命に一歩一歩砂地を踏みしめるセリニの足を不意になにかが捕らえた。
 驚き身を強張らせたセリニの身体ががくんと沈み、引き摺られるようにすり鉢状に窪んだ砂の海の中心へと流れていく。

 底に、なにかがいる。
 いや、正体などわかりきっていた。
 界獣イネインだ。

「っ、レイ!」

 彼女は咄嗟に救いを求めて叫んだ。異変に気付いたレイがはっと振り返る。
 だが、彼が腕を伸ばすよりも早く彼女の手を掴んだ者がいた。
 そのまま腕の主はセリニを難なく引き上げ、平坦な砂の上へと引き戻す。蟻地獄を形成した砂底の界獣イネインは獲物を横取りにされながらも顔さえ出さず、怖気づいたように沈黙したままでいる。

「まあ……怖い思いをしたのね。だいじょうぶ?」

 セリニを救ったのはひとりの女だった。
 ただの女ではない。人混みに紛れても頭抜けて背の高いレイがまるで子供に見えるほどの巨体をして、たぷんとした大きな尻の後ろにはにゅるりと長い尾を備えていた。
 ―フィアスだ。
 警戒心を迸らせたレイにセリニを腕の中から奪い返されてもフィアスは不快感を示す様子もなく、子を身籠っているのか大きく膨れた自らの腹をおっとり撫でている。

 彼女が、慈愛の獣≠セ。
 ふたりは直感した。

「ああ……、おまえ、影の獣≠ヒ。グリードの目を盗んだ……確か、アシュレイ」

 そしてフィアスもまた同様にレイの正体に思い至ったらしい。しかしそれでも彼女の水平の瞳孔をした瞳に敵愾心てきがいしんが灯ることはない。どこまでものんびりとしている。
 人を襲わず、それどころか与して界獣イネインの討伐にあたるレイを同族らは影の獣≠ニ呼び、時には問答無用で襲い掛かってくることも珍しくはないにも関わらず。
 レイは、そこで初めてはっきりとした困惑を滲ませた。

「……寒いの?」

 と。フィアスはセリニに目を留めて小首を傾いだ。未だ砂に飲み込まれかけた驚愕と恐怖が抜けきらず、自らを抱いて硬直する彼女を、どうやら寒気に震えているのだと解釈したらしい。

「ここのすぐ近くに、村があるの。私の村よ。案内してあげる。ここよりずうっと、温かいはずだから」

 子を宿す母らしからぬ無邪気さでもってそう笑うフィアスは、そのままにこにことレイとセリニの腕を引いて歩き始める。

「私はナマエ。ナマエ・フィアス。どうとでも呼んで」

 これが果たして罠なのか、裏のない善意の申し出なのか迷うふたりを振り返りながらフィアス―ナマエが自らの名を歌うように明かす。

「でも……かあさま≠チて呼んでくれたら、一等うれしいわ」

 その穏やかな双眸はじっとセリニを捉えて、そして柔らかく細められた。



 ナマエと出会す前、慈愛の獣≠ェ築いているという村落は砂漠を抜けた先にあるという位置情報しかなかったため、ふたりはひとまずまだ寒さの和らぐ昼のうちに砂漠を越えてしまった後で辺りを虱潰しに探索することを覚悟していたのだが、どうやら知らず知らずのうちに随分と近くまで来ていたようである。ナマエの言う通り、少し歩くとすぐに村が現れた。しかし本当に目と鼻の先にまで近付いていくまで、セリニはそれを村と認識することができていなかった。
 それもそのはず、村は丸きり地中に埋もれていたからだ。
 平らな地面にほぼ真四角をした巨大な穴は突然現れる。村はその穴の側面から横に掘り進めていく形で地下に形成されていた。所謂下沈式かちんしきだ。だから、遠目にはなにもない地が続いているように見えたわけである。
 厳しい寒さと、砂漠地帯を抜けると途端に降り出す雨を避けるための知恵だとナマエは教えてくれた。
 この大穴は中庭と連絡通路の役目を一挙に果たしているようだが、そこへ直接降りていく手立てはないように見える。やはりナマエは穴を通り過ぎて、ふたりを地下に降りていく坂道の前へ案内した。どうやらこのスロープが中庭への出入口らしい。
 中庭の穴とスロープとを隔てる巨大な(ナマエにとっては適切なサイズの)扉を開けると、主人の帰りを察知した人々がわらわらと顔を出して出迎えた。数にして十数名余り。奥にはもっと大勢がいるのかもしれない。
 怪我をしていたり痩せこけていたり、逆に妙に肥えていたりする村民は、表に出てきている限りでは一見してひとりもいない。恐怖も怯えもなく、村人たちは純粋にナマエの帰還を喜び、また彼女が連れ帰ったふたりの客人を歓迎した。
 心のこもった歓迎にセリニらは目を剥いたが、より驚いたのは村人たちが揃って口々にナマエを母≠ニ呼んだことだ。

「母様! おかえりなさい!」
「ええ、ただいま」
「お帰りなさいませ、母様」
「ただいま。いい子にしていた?」
「母様! 今日の夕飯の料理当番は俺たちだったんだぜ!」
「えへへ……、スープが自信作なんです。後で感想、聞かせてくださいね、母様っ」
「ふふ……、そうなの? たのしみだわ」

 ナマエを母と呼ぶ者らに年齢や男女の区別はない。垂れ下がった皮膚に無数の皺を刻む老人から、ほんの小さな幼子とその子と手を繋ぐ両親らしき男女までもが、彼女を心から母親として慕い、嬉しげに額や頬に口づけを受ける。
 セリニたちは呆気に取られつつも、その人々の中に消息を絶った冒険者が紛れてはいないかと目を凝らしたが、あの絵姿の特徴を持つ男はいない。
 この村に辿り着くことなく、どこかを彷徨い歩いているのだろうか。
 詳しく聞き込みをしようにもはしゃぎながら母を囲む彼らに口を挟む隙はなく、あれよあれよという間にレイとセリニはろくな情報も得られぬまま、晩餐に招かれることとなってしまった。
 お人好しの一行に、善意の誘いを無下にすることは難しかった。

 レイとセリニは蟻の巣のように無数に掘り込まれた部屋のうちの一室を客室として貸し与えられた。床は粘土質の土をそのまま均して乾かした上に絨毯を敷かれている。四方の壁には焼成した煉瓦を貼り付け、その上から真白い漆喰を塗り固めた清潔感のある部屋である。牀榻ベッドが寄り添う壁に掛かる角灯ランタンにまだ火は灯されていないようだが、それも今暫くのうちだけだろう。地下住宅はまだ日のある今でさえ薄暗いのだから。
 男女ということもあり、部屋を案内してくれた村人の少年は気を利かせてそれぞれに個室を用意してくれていたが、レイはそれを断った。セリニの気も知らず彼女を女性としてさほど意識していないということもあるだろうが、一番は未だ真意を見通せない女の懐で分断されることを嫌ったためである。
 だがそうと知らない少年は彼らを恋人同士なのだと勘違いして、恥ずかしそうに頬を赤らめつつも「余計なお世話だったみたいだね」とにこにこした。

 夕食までの間、レイとセリニはその感じのいい少年を引き留めることに成功した。
 彼はセリニよりも少し幼いぐらいだろうか、ぷくぷくの色白の頬が幼さを残す、茶色の巻き毛をした愛らしい少年だった。訊けば、まだ十三になったばかりだと言う。

「三歳か……四歳ぐらいのときだったかな。もうその頃には母さんに連れられて、ここに。砂漠越えは本当に大変でね、母さんとふたりで行き倒れかけたところを母様に助けてもらったんだ」

 会ったばかりの見知らぬ男女に話し相手になってくれるよう頼まれても嫌な顔ひとつせずに快諾した彼は、訊けば訊いただけ自身の知り得る限りのことを話してくれた。
 自分のこと、母親のこと、ナマエのこと、村のこと……。
 そうやって色んな話を聞かせてくれる彼はやはりどう見ても普通の少年で、至って健全なのである。

―やっぱり、ナマエは良いフィアスなんじゃない?」

 それこそ、レイのように。少年に聞こえないように耳打ちをしたセリニに、レイは黙り込んで応えなかった。

 話し込むうちに夕食の時間がやってきて、ふたりは少年の案内ですでに二十数名の人々が座す広間のような拓けた空間に導かれた。食堂らしい。村人たちはここでナマエに見守られながら、日々の食事を摂っているのだという。
 女子供が、湯気の立つスープや魚の煮込み料理を持ってきて石の食卓の上に並べていく。豪勢というわけではないが、小村にしてはその暮らしぶりの気前のよさが窺える。
 これらの食糧は、地底湖で釣りをしたり、自生の野菜や果物を採取したり、はたまたナマエが外へ狩りに出るなどして貯えているらしい。
 地底湖出身らしく眼球が退化したややグロテスクな魚面を正面から捉えずに済むように皿を回していたセリニの前に、ひとつの茶杯がことりと置かれる。
 顔を見ずとも、その巨大な手の持ち主はすぐにわかる。ナマエだ。セリニが石のスツールに腰かけているからということもあるが、随分遠く離れた頭上でナマエはにこにこしながらこちらを見ている。その手にはいくつかの茶杯を載せた盆がある。どうやら飲みものを配って回っているようだ。
 中に注がれているのは果物の搾り汁だろうか。とろみのある桃混じりの乳白色をしていて、甘酸っぱい、いい香りがする。

「あ……、ありがとう。あの、よければあたしも手伝うわ」
「いいのよ。座っていて?」

 思わず立ち上がりかけた彼女を、ナマエは視線だけで柔和に制する。

「……セリニはいいこね。ありがとう。お手伝いをしようとしてくれたその気持ちが、とってもうれしいわ」

 ナマエは言いながら腰を屈めてセリニに顔を近付ける。まさか、大勢の子供たちへするのと同じように、セリニにもキスを贈ろうとでもいうのか。どぎまぎしながら、セリニはついそれを受け入れるようにぎゅっと目を瞑ってしまう。
 だが、その唇がセリニの額や頬を掠めることはない。

「……あら? まあ……、ごめんなさいね」

 唇が届くよりも前に、巨躯に相応しく巨大すぎる胸に押し出されて、セリニはすぐ隣に座っていたレイを巻き添えにしてドミノみたいに引っくり返った。


―――
22/09/21


(管理人:瀬々里様)
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