雪の降る日は西瓜になりたい



 ぴょん。白い部分だけ踏んで歩かなきゃ死んじゃうからジャンプする。底なしの崖の上、均一に並ぶ重力知らずの飛び石にも危なげなく乗り移って渡っていく。最後の石に降り立って少し迷うのは道が途切れたせい。次の道に足をつけるまで息を止めてたらセーフ。ふ、ふ、と鼻を鳴らして早足で踏む白線の先端。

 すう。大気を吸った肺がやけに冷えるから顔をあげて、鼻先に落ちた冷気を拭う。ちらちらと白く視界を横切るのが見える。白く息を吐いて呟く、大当たりの昨日の予報。

 ぶおん。横切って段々遠退く排気音。毛羽立ったマフラーを気に留めるひとがいないのが可哀想で乱暴に引っ張って外してみる。狙ったようにぴゅっと風が吹くからアスファルトの隙間を縫って生える白っぽい草を踏みつけると、なんだか気分が晴れるような、そんな錯覚。

 ばつん。弾けて割れる音。パパが笑っていた。ママも笑っていた。白く輝く電柱がこっちを見ていた。凍てついた地面は驚くくらいに冷たくて張り付いた頬が痛かった。夏休みにかち割った西瓜が転がってた。目が眩むくらいに羨ましい遠い日の記憶。

 とつん。もこりとしたブーツの踵を鳴らす。雪がちらついてる。西瓜だけがない。車がぶうんぶんと、側に突っ立ってる奴の気持ちなんてなんにも知らないで行き交ってる。白い部分だけ歩かなきゃ死んじゃう私は、底見えずの崖からジャンプする。揺れる足と脱げるブーツ。

 凍りついた時を動かせ、西瓜。


―――
〜2016/02/12(正確な時期不明)
微修正.2024/06/07


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