生命のサラダボウル国家に栄える食物連鎖



 俺とは違う、生まれたての蛞蝓みてえなつるつるの肌に刻印されたバーコードを薄目で見ながら肉を噛み千切る。弾力があってぶちぶち引き千切れる筋繊維と蕩けるような味わいの脂肪が美味い。
 老いて筋肉の萎えた身は安価な上に柔らかくて食べやすいが、その一方で食感がぱさついていて味気ない。幼すぎる肉は果実のように甘く瑞々しいが、噛み応えのない肉は物足りないしなにより値段が高すぎる。
 個人的な食の嗜好に過ぎないがこれらの点を鑑みると、やはり俺には成体前後のヒトの肉がよく口に合った。

 ――だから、ほら。ずっと、『私にすれば?』って言ってあげてたじゃない。

 食用でもないヒトを食べるのは犯罪だ。メニューを選べる程度の財布事情で食事のために牢にぶちこまれるのは馬鹿らしいから、俺は登録のある養殖以外は口にしないと決めている。
 そう、決めていたから。

 ――見てよ、これ。登録番号とバーコード。私がいたとこは真っ黒な違法牧場だったけど、登録番号だけは正規のものだから、食べてもあんたは捕まらないよ。

 この節操なしな世界はヒトもケモノビトも、サカナビトもクサビトも、なにもかもが捕食者であり披食者だ。登録番号とバーコードが焼きつけられているかいないかの違いで、その命の使い道は簡単に裏返る。

 ――初めて会ったときに引っ越してきたなんて嘘言ってごめんね。ほんとは牧場から逃げ出してきたの。でも、私ってやっぱり家畜なのね。あんなに屠殺が嫌で逃げ出したくせしてさ、今はあんたに食べられたくて仕方ないの。

 お前がそんな甘ったるいこと言いやがるから、とうとう俺は惚れた女さえただの肉にしか見えなくなっちまった。


―――
23/06/24


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