そんな、ちっぽけな思い込み



「だってさ、あの子ったら狡いのよ」

 ――と拗ねたように言って、先輩は濡羽色の長い長い髪をくるくると指に絡めた。いかにもさっぱりと涼しげな切れ長の目は今に限っては憂えるように伏せられて、未練がましい女の湿っぽさを匂わせる。

「あたし、その日は頭髪検査があるからスプレーで黒染めしてただけなのよ。それなのにあの子ってば、あたしのことお清楚で優しい上級生だって思い込んで、センパイ、センパイ≠ネんて懐いちゃってさ」

 きっちり膝下五センチのプリーツスカート。素肌なんて少しも透けない鉄壁デニールの黒タイツ。肌が真っ白くて日焼け知らずなのだけは、中学時代から変わらない。

「そんなの、狡いじゃない。かわいいじゃないのよ。だからあたし、あの子の前でだけは綺麗なセンパイ≠ナいたくなっちゃったんじゃないのよ」

 清楚で、上品で、おしとやかで、優しい上級生。きっとこんな先輩と仲良しになれたらこの先の高校生活がちょっぴり優越感に浸れるものになるだろうことは間違いない、みんなの憧れ。

「あの子のずれたリボンを結び直してやれるのは、あたしだけだと思ってたのにさ」

 でも私は、あなたの安っぽい金髪ととびきり短いスカートが大好きだったんだって。今さらそんなこと言っても、喜んでくれないですか。
 ねえ、先輩。


―――
23/06/14


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