現代に神話は息衝くか



 いったいいつまで埃を被った信仰に縋り続ければ満足を得られるというのだろう。山間の田舎村にさえ電波塔を望める現代において、最早神秘のヴェールは破られたも同然だというのに。なお未練がましく神の見えざる手を用いて森羅万象を意のままにしようというのか。敬虔な信徒の面をぶら提げて己が傲慢を民意と押し通そうというのか。
 ちっぽけな娘ひとりの命で太陽を払い雨雲を引き寄せられるなどと、忘れ去られつつあったくだらぬ因習を恥ずかしげもなく引き摺り出して、どうしてそう思い込めたのか。

 なにものも赦されてはならぬ。
 そうだとも、決して赦してはならぬ。なにものも生かしてはおけぬ。
 それは、あの子を見殺しにした私自身も同様に。

「ごめんね、ごめんね……。傍にいられなくて、ごめんね」

 トラクタにガソリンを注ぎながらなにが神だ、馬鹿馬鹿しい。散々打ち据えられて縄を当てられたどす黒い腕でも、燐寸を一本擦ることくらいはわけなどない。
 乾ききった作物も木々も家も、人さえも、さぞやよくよく燃えるだろうさ。お前たちの信仰ごと、なにもかもオイルの臭気に飲み込まれてしまえばいい。

「追いついたら、今度こそもうひとりになんてしやしないからね」

 ―さあ、火を放て。


―――
23/06/07


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