瑞樹くんがくたびれたおじさんに股間をくんくんされるだけ🤍




 鬼蛇キダイズル。性別、男。年齢、三十八歳。カウンセリングルームにて我が叔父の後輩として働く、いわゆる独身貴族様。
 そんな彼は十二年前、セックスのセの字も知らないいたいけなタマキくん六歳ろくちゃいにレイプ未遂とかいうトラウマ必至アタックをぶちかまして第一発見者のミツユキお兄ちゃんにうっかり殴殺されかけたという過去を持つ、中々に救いようのない変態さんだ。
 実際のところの彼は別に小児性愛の気があったというわけではなく、たまたま妖魔の類いに取り憑かれていたところにたまたま妖魔視点から見たご馳走たるおれとエンカウントしてしまっただけの不遇の人という印象だったわけだが。

「んむっ🤍 フーッ🤍フーッ🤍 はふ🤍 む🤍んもッ🤍 はむ🤍 ン🤍🤍ふっ🤍」

 ―おれがアルバイターとして働くセレモニーホール、その従業員用の休憩室に設置された、折り畳み式のパイプ椅子。
 そこへ座るおれの膝元に潜り込み、黒のスラックス越しの股間に嬉しそ〜〜にかぶりついてにおいを嗅いでいるところからして、実は根っからの変態さんだっただけなのでは疑惑が浮上している。
 十二年前の夏に取り憑かれたという怪異が思いの外奥深くまで巣食ってしまい祓いきれなかったせいで自分が変わってしまったのだと彼は主張しているが、おれは単に彼が生来持つ歪んだ性癖と怪異の気質とがうまく噛み合ってしまったせいでこんなことになったのではと思う。共生している怪異とも中々うまくやっているようだし。

「ッハ🤍🤍 た、タマキくん🤍 ごめ🤍ごめんね🤍🤍 ハッ……フーッ🤍フーッ🤍 ぼ、ぼく、我慢できなくて🤍 スゥッ🤍はふ🤍 どうしてもタマキくんに🤍会いたくて🤍🤍」
「あ、そうなんだ〜。ありがとー」
「ごめんね🤍 ハ🤍ハッ🤍 ごめんね🤍 んふ🤍 はむっ🤍 こ、こんなことして🤍ほんとうにごめんね🤍 い🤍いやじゃない?🤍 きっ🤍きもちわるくない?🤍🤍」
「え? ……あー、へーきへーき。気にしないで」
「スーッ🤍フーッ🤍 ほ🤍ほんとに?🤍 う🤍うれしい🤍🤍」

 嘘だ。荒い鼻息がふんふんふんふんうるさい上に熱気と湿気が最悪のマリアージュを果たした吐息はちょっと普通に気持ち悪い。これで相手が女だったらまだしも、特に美形だというわけでもない三十八歳のおっさんは絵面からなにまで全部キツい。彼も彼で、ギリ未成年とはいえ男の股間に挟まり込むことのいったいなにがそんなにハッピーなのか。今日は暑かったせいで少し蒸れているし、絶対にいい匂いではないと思うのに。
 手元でいじるスマホに集中することで、人の股間を熱心に嗅ぎ回るおっさんをどうにかこうにか意識の外へ追いやろうにも、暑ッ苦しいしうるッさいしで、試みは全く成功しない。
 仕方なく、スマホの電源を落としてテーブルへ置く。ちなみに、おれのスマホカバーはどれだけ代替りしようといつだって絶対に手帳型だ。これだけは譲れない。
 ―閑話休題。
 かれこれ三十分ほど居座り続けられた下腹部は全体的にややしっとりとしている。最悪だ。おれはげんなりした気持ちを圧し殺して、彼ににっこり笑いかけた。

「キダさんさあ、なにしにきたわけ?」
「えっ……」

 普段はこうして突然押し掛けられてもなすがままにされているおれの不意打ちの問いに驚いたのだろう。こちらを見上げるキダさんの顔色はちょっぴり悪い。彼の足元で異様にこっくりと濃い影までもが動揺を示すようにほんの一瞬揺らめいたのを見て、おれははたと口を押さえた。
 いけない、いけない。表情こそ隠し通したものの、声音に内心の険が駄々漏れだったようだ。

 ―まあ、だがしかし、だからなんだという話でもある。

 別に彼に冷たくしたからってわざわざおれの尻をひっぱたくような人間はいないし、当のキダさんもおれから雑に扱われたところで文句をつけるような面の皮の厚さは持ち合わせちゃいないのを、おれは知っていた。

「キダさんには暇に見えたかもしれないけど、おれ、一応仕事の休憩取ってるとこなんだよね」
「ち、違っ……! そんな、つもりじゃ……グムッ!?🤍🤍🤍🤍」

 キダさんを股の間に入れたまま、狭い座面の上で胡座を掻くように脚を折り畳む。顔いっぱいにおれの股間を押し付けられたキダさんの顔色は赤くなったり青くなったりと大変にせわしい。
 思わずといったようにおれの腿へ添えられた手はぷるぷると震えて、汗でぬるついているのが目に見えてわかる。相変わらず妙におれに弱くて気持ちの悪い人だ。そうと知っていいように扱ってるおれが悪しざまに言えたことではないだろうけども。

―だからさあ、キダさん。おれには、用もなくふらっと立ち寄っただけの部外者のおじさんを意味もなく構ってる暇なんてないわけ。言ってること、わかるよね?」

 彼にこう言いはしたものの、ちょっとくらい表の仕事を抜けたところで、誰にでもできるような業務を任されているだけのおれの穴程度はさしたる問題ではない。それに下っ端アルバイターなれど、このセレモニーホールにおいてのおれの立場はそう悪いもんでもないので、多少問題が生じたところでまず怒られない可能性がある。
 それは経営者のライセくんがおれを気に入っているからというのもあるが、最も大きな要因はおれの持つ特性にある。

 ―氣=B
 人や動物などに限らず、誰しもが持つもの。

 その氣を無限に生み出し取り込み続けるという特異体質であるところのおれは、人の手を借り、性行為やそれに準ずる接触に至らなくてはほとんど氣の排出ができない。
 人にはそれぞれ定められた大きさの器があり、その器から溢れ出した氣は毒になる上、おれの場合は妙な輩にちょっかいをかけられる原因にもなるため死活問題だ。
 だがその一方で、比較的最近に判明したよい側面もある。
 それは、おれから氣を取り込んだ者は一定時間という制限はあるものの、器≠フ上限を超過した氣をなんのデメリットもなく保有できるというものだ。氣を扱い消費し怪異討伐に乗り出す者たちにとってこれほど都合のいい体質もなく、しばしばおれには特別業務と銘打って他者に氣を与えるために席を立つことが許された。

 おれが勤務するセレモニーホールとキダさんが勤務するカウンセリングルームは勤務地や表の業務こそ異なれど、両経営者が血縁関係にあるために裏ではしっかりがっつり手を繋いでいるから、おれについても共有財産のような扱いをされている。
 つまり、カウンセリングルームでお悩み相談に乗る優しいキダおじさんの相手をしている暇はないが、怪異討伐の志を同じくするキダさんにならおれにも構う余地がある――――という建前が通用するわけで。

―キダさァん、おれ、もう休憩終わっちゃうって。なんも用ないなら、行っちゃってもいーい?」

 おれの通常の休憩は十三時から入って十四時までのきっかり一時間。今、時計はちょうど十三時四十五分を指し示したところ。
 時計とおれとをちらちら見比べる彼は、まだ自分が真人間のつもりでいるのかもしれない。そうでなければ、この期に及んでどうしておれを求めることに羞恥や躊躇いを抱こうというのか。わざわざ押しかけてきてまでこんな馬鹿なことをしているんだから、今さら守る体裁もないだろうに。
 キダさんの見開かれた目はぐらぐらと揺れている。息は犬のように荒く、その全てを受け止めているおれの股ぐらにはキダさんの淫熱がじっとりとこもっている。

「……ま、待って……🤍🤍」

 少し上体を傾けるだけで、キダさんのぱんぱんに膨らんだちんこが履き心地のよさそうなベージュのストレッチパンツの中心を押し上げているのがおれにはよく見えた。

「その、タマキくんさえよければ……タマキくんに、協力させてほしくて……🤍」
―はあ?」

 思わず小馬鹿にした笑いが鼻から漏れる。本当に面白い人だな。協力・・だって。馬ッ鹿じゃねーの。

「悪いけどキダさん、おれ、自分で言うのもなんだけど結構モテるんだよね」

 モテるというとやや語弊があるが、だいたい事実だ。おれをいくら気に入らないと思っている奴でもおれの体質の有用さは認めるところで、別に今ここでキダさんを捨て置いて部屋を後にしたところで相手はいくらでも見つけられる自信がある。というかわざわざ選ぶなら、おれならこんなくたびれたおっさんは選ばない。

「話は終わった? これで満足? もう終わりでいい?」
「ッま、待って! ごめん、タマキくん、待ってくれ!」
「待ってるよ? なあに?」

 小首を傾げて訊くと、キダさんは音を立てて生唾を飲み込んだ。

 よそがどうだかは知らないが、うちの場合は仕事の内容によって長丁場になることはよくあることなので、休憩室の隣には仮眠室が設けられている。ひと部屋にベッドが四つ入った鍵のかかる部屋が全部で三室。元々は男女それぞれ一室ずつとしてあったものが、一年前におれが入社してから新たに一室増設されたらしい。用途はお察しだ。こういうときに存分に役立ってくれるから文句をつけるつもりはないけども。さすがのおれも、従業員なら誰でも入ってこられてしまうような場所で全裸になる勇気はないので。

「ぼく、……ほんとはぼくが、タマキくんとえっちしたくて……🤍」
「うん、そうだよね。それで?」

 キダさんの目はもうとろとろに蕩けている。キダさんも、キダさんに憑いた怪異も、よほどおれの氣が美味いと見える。

―た🤍タマキくんの氣🤍🤍ぼくのおなかにいっぱいだしてください……🤍🤍🤍🤍」
「……わかったァ🤍 じゃ、『特別業務入りまーす』って、先輩に連絡しとくね🤍」

 恥もなく未成年におねだりをするみっともないおじさんに笑いかけてやりながらトークアプリを開くと、わざわざ断るまでもなく当の同シフトの先輩から「次は私もよろしく頼むよ」などというなんとも明け透けなメッセージが飛び込んでくる。
 キダさんをここへ通したのも彼女だという話だし、なんでもお見通しってわけか、いけすかない女め。


―――
22/07/23


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