風に消える

『お前、こんなの作れるんだな!!』
『…え』

大嫌いだったはずの彼が、はじめて自分を褒めた。
思い出は輝いて見えると良く言うが、実際俺には、アイツのその笑顔がキラキラ輝いて見えてのだ。

『すっげぇ上手い、綺麗だなぁ!!本物見てるみてぇ』
『そ…うか?』
『あぁ!!食満って用具委員会だっけ?』
『あ、あぁ』

それは、トンボのオモチャに少しだけ手を加えたもの、一年生の宿題の一つ、自由研究の作品。
自分では良い出来だとはあまり思わなかった。手を加えた結果、トンボは本来の目的を果たせなくなって、飛べなくなってしまったからだ。だから俺は、どれだけこれが良く出来ていたと褒められても、嬉しいなんて感じなかった。
なのに、一年生の春から、喧嘩ばかりしているこの好敵手が、悪意のない言葉で、とても素直に、綺麗だ、と、上手い、と褒めてくれて、誰に褒められても喜べなかった俺の心は、まるで、暖かい日差しにに包まれたような、晴れやかな気分になったのだ。

『お前六年間用具委員会にいたら、良い委員長になれそうだな!!』
『…潮江』
『ん?』

思えばあの時から、

『ありがと…』

俺はアイツのことが『好き』だったのかもしれない。


あれから四年、もうすぐ六年生になる俺は、用具委員会の倉庫で物を作る。
昔は俺の作る作品に対して無条件で褒めてくれた彼は、俺を中々褒めることはなくなった。アイツ自身が金を管理する委員会に所属していて、六年で会計委員長になることもあるせいか、金銭に絡みそうなものに対して、評価が手厳しくなってしまったのだ。だからもう褒められることもない。諦めているところもあるし、俺ももう六年生という立場なのだから、褒められなくても構わない。けれど、

「…っ」

この掌はいつまでも素直に、自分が本当は喜んでもらいたい人のために、物を作り出すことをやめてはくれない。
物を作って、部屋を埋め尽くしては、捨て、また作っては捨てるの繰り返しだ。
あのときアイツがいったように、俺は用具委員会の委員長になることが決まった。けれど、俺は

「良い用具委員長なんて、なれるのかなぁ…」

先の見えない一年間、それを過ぎたらもう学園ともお別れだ。その前に

「アイツに対して、本当の気持ちを…言える機会が欲しい」

部屋を蹂躙する渡せない道具たち、使って欲しかったもの、渡して…笑顔が見たかった。本当は褒めて欲しかった。
けれどいつだって、本当の気持ちは言えないままだ。

「喧嘩友達だけじゃ、もう俺は…辛いんだよ…」

呟いた言葉は、倉庫から防ぎきれなかった強い風の音に、掻き消えた。

風に消える
※捧げものの雨雨降れ降れ設定。告白される前のお話

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