一個に込める愛情

「んっ」

ガサリ、と目の前のビニール袋が音を立てた。

「あ?何だよ…」
「お前にやる」

そう言って留三郎は、俺にビニール袋を押し付けると、そのまま走り去っていってしまった。

「何なんだ…」

暫く茫然と走り去っていく食満を眺めながら、押し付けられたビニールの中身を確認すると

「……はっ、アイツ」

思わず乾いた笑いが出てきた。ビニールの中身は、四角い小さいチョコレートが大量に入っていた。絶対にチロルチョコである。それは分かる、分かるのだが…問題なのはそのパッケージであって…・

「き、ら、い…って」

そのチロルチョコは、ひらがなで、「き」「ら」「い」とパッケージの表に文字がくるようにされていた。この無駄な懲り方がアイツらしいといえばアイツらしいが、態々こんなもの渡さなくても良かったじゃねぇか…と思うのだが

俺が、留三郎の真意に気付くのは、渡されたから、数日後、チロルチョコのパッケージが一つだけ、違う気付くときである。



「チロルチョコのパッケージは註文すると表面自分でデザイン出来るようになってるんだけどさ」
「うん?」

留三郎が教室から戻ってきて、机に座った瞬間そんなことを呟いたので、前の席にいる僕は振り返る。

「急にどうしたのさ」
「文次郎にそれ渡してきたんだよ…」
「ふーん」

今日はバレンタインデーだ。文次郎は気づいていなさそうだけど、僕は二人が付き合ってるのを知っているし、留三郎もチロルチョコではあるものの、自分でデザインするとか結構凝ったものを渡してきたんだなぁと思ったのだ。が、

「ワンセット45個入り2362円(税込)で、それを四つ註文した」
「四つ!!?」
「ひらがなで「き」と「ら」と「い」で三つ作ってもらったんだが…」
「留…」

高いよ、何それ、っていうかチロルチョコそんなにいらないでしょ!?とかそんな手間かけてまで嫌いアピールしなくても良かったんじゃ、とか色々言いたいことはあったけれど、

「あれ?三つ?残りの一つはどうしたのさ?」
「…それなんだが…」

そこまで言って、留三郎は凄く恥ずかしそうに鞄の中から、チロルチョコの箱詰めを取り出した。その中は一個だけなくて、その表紙は…

「おや」
「っ!!だっ、だってこれだけ贈ったって、は、恥ずかしいじゃねぇか!!」
「おやおや〜?これだけは凄い凝ってるんだねぇ」

差し出された箱詰めのチョコの表紙は、可愛らしい狸と狐のデフォルト絵がハートを持っていて、そのハートにLOVEと書かれたものだった。どうやら「き」と「ら」と「い」の大量のチョコの中に、一個だけこれを混ぜたらしい。
その素直じゃない態度が何だか凄く微笑ましくて、僕は思わず笑ってしまった。

「はははっ、可愛いことするよね、留三郎は」
「っ!!」
「でもチョコ消費には付き合わないからね」
「えぇぇ」

真っ赤になって狼狽える留三郎が持っている箱詰めのチョコを眺める。どうやら留三郎はこれを何とか消費したくて、僕にも食べさせる気らしいが、それはいけないだろう

「そんな愛が詰まったチョコなんて、甘すぎて食えたもんじゃないよ」

消費したいならそれも本人に渡しておいで


しかし留三郎は、僕の発言に、顔をさらに真っ赤にさせて「出来たら苦労しねぇんだよ…」と小さくつぶやいて、自分でチョコを食べはじめてしまった。そんな姿に、やっぱり素直に渡すのには時間がかかるんだろうなぁと僕は苦笑した。

文次郎が気付くのははたしていつになることやら、とにかく素直じゃない彼の為に、彼がホワイトデーどんなお返しをするのか、僕は結構楽しみだったりする。

一個に込める愛情

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