鬼は内、福も内

「鬼はー外ー福は内ー」
「だっ!!」

そう言って目の前の豆袋を手にした相手から豆を投げられ、豆は狙ったかのように自分の顔面に直撃した。

「何しやがる!!」

投げつけられた豆が、コロコロ音と立てて落ちていくのが若干鬱陶しい。予想だにしなかった相手からの攻撃に思わず怒鳴ると、目の前の相手はニヤニヤとそれはもう人の悪い笑みを浮かべていた。

「はっ、俺は鬼に豆を投げただけだぜ」
「てめぇ…」

しかもその顔で、鬼に豆投げて何がおかしいんだ?とでも言うように鼻で笑われたら、これはもう俺に足して喧嘩を売っていると考えて良いんだよなぁ?そこまで結論付けて、さぁ相手を殴ろうか、という体制になったところで、目の前の相手の顔つきが、憎たらしい笑顔から、急に酷く愛おしい者を見るような目付きに変わった。

「って、鬼なら普通は追い払うもんなんだろうけどよぉ」
「…は」

その笑顔に、握った拳の行き場がどこにもない俺は戸惑う。

「お前は俺のだからな」
「へ…」
「俺はお前を追い払えない訳だよ?」
「なっ」
「だからお前は、福の神の代わりに俺を幸せにする権利があると思うんだが…なぁ?」
「…」
「…っ」

ニコニコと心底楽しそうな相手の口からポンポン出てくる予想外の言葉に、俺はさらに困惑する。が、幸せにする権利、とかそんなものなくたってなぁ…。

「別に権利なんてなくても、俺はお前を…食満留三郎を幸せにするつもりだぜ?」
「…っな」
「それじゃぁダメか?」

素直に思っている事を口にだしたら、目の前の留三郎は口を開けて、ポカンッと呆けた顔で俺を見た後、見る見るまに顔をジワジワと真っ赤にさせて、持っていた豆袋の中に手を突っ込んでもう一度俺に豆を投げてきた。

「な!!お前の鬼だから福の神は呼ばねぇんだろ!?」
「そーだよ!!俺の鬼だよ!!お前は俺のなの!!…けど…なんか癪だから、投げる!!」
「ふざけんなー!!!それを言うならお前も俺のだからな!!覚悟しやがれぇぇ!!」
「恥ずかしいこと言うなぁぁぁ!!」

先程まで結構恥ずかしいこと言ってたヤツが何を言うか、と思ったが、それが照れ隠しなのもわかるので、そういう姿を見ていると何だかこちらまで恥ずかしくなってきた。なので留三郎に投げられた豆を集めて投げて、留三郎も豆を投げてを繰り返した結果、その日は、豆まき合戦になったのだった…

勿論そのあと、先生に叱られたのは言うまでもない。

でもまぁ、鬼は外とは言うけれど、俺たちの間には何だかんだ幸福しかないので、豆まきなんて必要なかったんじゃねぇかなぁなんて俺は思う訳だ。


鬼は内、福も内

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