今も昔も変わらずに

「仙蔵は俺の事が嫌いだろ…」
「はっ」
「鼻で笑うなよ!!」

俺、食満留三郎には一つの確信がある。六年い組、立花仙蔵は、俺のことが絶対に嫌いだ。何故俺がそう思うのかと言うと、別にこの人を小馬鹿にした鼻笑いから嫌いだと推測したのではない。思い当たる節が、俺の中には沢山あるからだ。一年生の頃の俺は、その時、天使のように可愛かった仙蔵にとても懐いていた。懐いていたまでは良いのだが、構ってほしくて構いたい気持ちが暴走していたのか、仙蔵を振り回しに振り回していたのだ。

『仙ちゃん、泳ごー!!』
『え?わ、わぁぁぁ!!』

とか言って俺はアイツを川に落としたこともあるし

『仙ちゃん!!はいこれ!!』
『かたつむりぃぃぃ!!!!』

仙蔵に苦手なヌルヌルした虫をあげたこともあった。
今思うと、俺が一年生のときに仙蔵にやった行動全てが、アイツに湿り気厳禁という思想を植え付けていたように思う。正直ある程度大人になった今でも、仙蔵には委員会の後輩二人のせいでまた迷惑をかけてしまっているので、さらに嫌われ度は加速しているのだろう。

「まぁ、お前に係わると、ほんっとーにロクなことがないなぁ」
「ぐっ」

確かにロクでもないことばかりだけれど…今は凄く反省しているんだが…。人が悪そうにニヤァと笑う姿に、あの時の天使はもういない。むしろこれは悪魔だ。でもあの時の俺はかなり必至だったのだ。はじめてあったときから、キラキラした綺麗な子だと思った。そんな子と仲良くなれたのが奇跡みたいに嬉しくて、でもだからこそ子供特有の独占欲で、かなり困らせた。文次郎との最初の喧嘩の発端も、仙蔵絡みだったことは、俺の中だけの秘密だ。

「ロクなことはないが、お前に振り回されるのは、まぁ私の運命みたいなものだからな」
「へ?」

けれど仙蔵は、俺の予想とは少しだけ違う返答をくれた。

「生憎、もう弱くもないんでね」
「った!!」

そう言って、俺の額にデコピンを軽くすると、仙蔵は何故かニッとたけに楽しそうに笑って

「嫌いか好きかなんて自分で判断しろ、愚か者」

俺の額に口付けた。

「なっ!!」
「これで分からなかったらお前はやっぱりアホのは組だ」
「誰がアホのは組だ!!」

喉の奥でクツクツと笑う仙蔵に、俺はバッと自分の掌で額を押さえながら

「〜っ」

自分の体温がそこから急上昇していくのを感じた。目の前には悪魔が一人、だけど、けれどもこれを…嫌になれない俺は、今も昔も、どれだけ迷惑をかけようとも立花仙蔵が好きなのだ。

今も昔も変わらずに

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