しかしこれは、まぎれもなく恋の始まりです

アイツに対しての俺の思いは、一体どうなっているのだろう?

「も、文次郎」
「…?おう」
「っ!!」

キョトンッと首を傾げる姿に、心臓が盛大に高鳴った。くそ、止まれ止まれ、と自分の心臓を鷲掴みながら、俺は目の前の男と向き合った。俺は、最近、自分の好敵手である潮江文次郎を目の前にすると、心臓がドキドキするという症状に悩まされていた。

「少し聞きたいんだが」
「あぁ」
「俺…さ、最近、とある特定の人物を目の前にしたときだけ、こう、心臓がドキドキするんだが」
「…はぁ?」
「いまいち病状が分からなくて、お前、知ってるか?」

この症状の正体が分からず伊作にその話をすると、「留三郎…」と何故か呆れたような目線を返され「それは自分で気づくべきことだよ」と肩を叩かれた。だが「分からねぇもんは分からねぇんだよ!!」と食い下がると「じゃぁ、文次郎に聞いてみれば?」と言われたので、本人に聞いてみることにしたのだ。

「お前…」
「?」

文次郎はどこか困ったような顔をした後、何故か優しく笑う。

「っ」

その予想外な不意打ちの可愛い笑顔に、さらに心臓が高鳴る俺をよそに、文次郎は解答をくれた。

「それは…恋じゃねぇの?」
「え…?」

こ…い…鯉?いや、違うよな、そんなバカな…恋?…これが…恋?

「お前が俺に恋の相談なんて何事かと思ったじゃねぇか…でもまぁ自覚がねぇんじゃなぁ」
「え、え?」
「お前にもそういう相手がいるんだな」
「あ、あの」
「どういう娘かは知らないが、ほどほどにな」
「ちょっ」
「俺たちには三禁がある訳だしよ」

俺が焦っているのに気付いていないらしい文次郎は、そう言って、何故か、面白いからかいのネタを見つけた。というような、やけに爽やかな笑顔を見せた後、俺の肩をポンポンと叩いて、その場から去ってしまった。

「…は…」

文次郎が去ったその場所で、残された俺は、この気持ちの正体に気付いてしまい。しかしまだそれを受け入れられるほどの余裕もなく…その場でへたり込んで頭を抱える羽目になった。

俺が文次郎を好きだなんて、そんなの嘘に決まってる!!

しかしこれは、
まぎれもなく
恋の始まりです


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