楽しむことこそ人生だ

「はぁ…はぁ…」

食満留三郎は走っていた。

「…やーれやれ」

それをパソコンの大画面で見ていた潮江は、通信器を使って食満に支持を出してやる。

『留、そのまま次の角をいったところに、蓋が開けやすくなっちまってるマンホールがある。その下に丁度抜け道が出来てるから、そっから逃げろ』
「はぁぁぁ!!?」

そんな潮江の声に、食満は抗議の声をあげようとしたが

『じゃぁな留、Buona foruna(ボナ・フォルトゥーナ)(あなたに幸運を)!!』

潮江はそれだけ言うと通信器をブチッと切ってしまった。
一方食満はそれに、悔しそうにちっと舌打ちして、再び走る速度を速くした。

「さりげなくイタリア語でカッコ良く終めてんじゃねぇぇぇぇ!!!」

恐らく潮江はあの大画面で、食満を悠々と見ながら大爆笑しているに違いない。そう思うと、ますます食満は悔しくなった。
食満は角を曲がった場所のマンホールの蓋をバッと開けると、そのまま、食満は姿を消した。
食満が消えたあとに残るのは、

「どこだぁぁ!!!」
「っち逃げられた!!」

大勢の警察官の声と、パトランプの赤い点滅だけだった…。



数時間後、ボロボロの姿で帰って来た食満を、潮江は、苦笑して出迎えた。
潮江のその右手には杖があり、潮江はそれにより掛かるようにしている。潮江は、昔から足が悪かった。
故に、足での激しい運動はあまり出来ない。
そんな潮江を見ながら、食満は内心、無理して出迎えなくても良いのに…と思いつつ、いつもの調子でため息をつく。

「…何なんだあの抜け道は!!」
「いやぁ悪い悪い」

食満が通ってきたマンホールには、確かに抜け道があった。しかし、長い間使っていなかったのか、ネズミの巣の巣窟と化していたのだ。他の道を尋ねようと、通信機を入れた食満だが、地下だった為、電波状況が悪く、なくなくネズミの巣を通って来た。その結果がこれである。顔を顰める食満の頭を潮江は軽く撫でてやった。

「風呂沸いてんぞ、」
「…お前なぁ」

ジト目で潮江を睨む食満だったが、潮江の言葉に素直に従った。しかし、その前に聞きたいことがある。と潮江を見る。

「今回の報酬は?」
「百億ほど」
「了解」

潮江がそう言うと食満はニッと笑って、風呂場に向かっていったが、そこでクルリと振り返る。

「なぁ、文次郎」
「?」
「楽しかった?」
「はっ」

食満がそう聞くと、潮江は顔を緩めて笑った。

「あぁ」

それを聞いた食満は、満足そうに、今度はしっかり風呂場に向かった。
二人は、俗に言う盗人、泥棒、という職業をしている。ハッカーである食満を、情報屋である潮江が拾ったことが全ての始まりだった。元々有能なハッカーであり犯罪者である食満を拾ったことで、様々な事件に巻き込まれた潮江は、紆余曲折あり、食満の犯罪に加勢するという結果に至った。

『○月○日、犯罪組織「RAIN」の一人と思われる男を発見、警察側は見事に逃げられ〜…』

潮江と食満の部屋の、つけっぱなしのテレビのニュースから、ニュースキャスターの声が流れる。

世間からは悪行をしていると思われているようだが、潮江と食満の組織RAIN(レイン)は、基本は政治家などの悪行を露わにしたり、貧しい人々に、お金を支援したりする言わば義賊だ。
そもそも食満は、潮江に会うまでは、そのような義賊てきな犯罪者ではなかった。
暗い道の中を、一人でふらふら歩いて、毎時、生きるか死ぬか、逃れるか捕まるか、この二択しかなかった。
…潮江に会うまでは…。

はじめて会ったとき、食満を犯罪者と知りながらも匿った潮江は、食満の犯罪に加担するその変わりに。

『…なぁ、食満、人の役に立つ犯罪者ってのやってみたくねぇ?』

提案したのは、潮江だった。これから自らも犯罪者の仲間入りだと言うのに、ひどく楽しそうに笑ってみせた潮江は、食満に手を差し出したのだ。

『俺と、楽しいこと、しようじゃねぇか』
『楽しい…こと?』
『あぁ』

そうやって笑う潮江が眩しくて、思わず手潮江のその手を握った食満は、

『俺たちは今日から仲間だ。よろしく、相棒』

恐らくこれが人生で最後であろう。最高の『仲間』を手に入れた。

今回は、盗みの仕事で、奪えるであろう金の額は、百億ほどだと言う。
食満は風呂に入りながら、にんまりと笑んだ。

食満には潮江に拾ってもらったあの日から、食満は決めていることがあるのだ。
それは、潮江を楽しませることだった。本人はそんなことは言わないが、潮江は、自分がうまく動けない変わりに、本を読んだり、ゲームをしたり、頭で考えることを最大の楽しみとしている。
ハッカーである食満も顔負けのその頭脳と、足が動くようになっていてば、もしかしたら潮江は、もっと違う人生を歩んでいて、自分と会うことなどなかったかも知れない。足が悪いからこそ、食満の中の潮江は成り立つのだ。
だから、食満は潮江と出会わせてくれた彼の足に感謝し、潮江の変わりに足となって動くことを本望としている。
食満にとって、昔はただがむしゃらに盗みをしていただけだった。だが今の食満は、潮江が楽しめればそれで良いのだ。

「ふっふ」

風呂から、食満が立ち上がると、風呂水がザバっと辺りに飛ぶ、食満はニマニマと笑いながら、潮江の方に向かっていた。

「褒美、貰わなくちゃなんねぇからな」

そう言う食満が、半裸状態のまま、潮江を誘惑するまで後数秒。

今日はどちらが受けるか攻めるかで討論になること数分。

いろいろ言い含められた潮江が、腰を摩りながら、後悔するまで後数時間。



楽しむことこそ人生だ

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