泣かない子供

暗殺が主であり、厳しい環境下にある風魔の、ただ一人の『六年生』
そんな特殊な人物に、興味を持つな、と言うほうが無理な話で…。興味があった。だから近付いた。

『お前が、錫高野与四郎か?』
『誰だ!!』
『俺?俺は…』

そうやって、初めてあった錫高野与四郎と対峙した俺の感想は「強い」だ。
忍術学園の六年生よりも、群を抜いて強い。
ただし、俺も伊達に凄腕と呼ばれている訳ではない。忍頭としては年齢も若く、まだまだ未熟な部分はある俺だが、
一人の忍としては、錫高野よりも訓練を積んで来ている自身がある。
錫高野の若い故の未熟さも良く分かった。

年齢を積めば、大物になるだろう。

とそれは分かった。

次に会ったときの錫高野は、泣きそうな顔をしていた。
あまりに辛そうな顔をしている錫高野に、俺は思わず声を掛けてしまった。

「よぉ」
「っまたお前か!!」

そうやって構える錫高野に、俺は前回のように、力試しに来た訳ではない。と言うことと、錫高野と戦う意思は無い。
という証拠に、自分の袖に隠していた武器一式を地面に捨てて、両手を挙げた。
無用心とは思うが、相手は暗殺が主な風魔の忍とはいえ、基本良心を大事にする忍術学園の生徒だ。大丈夫だろう。
そんな俺に、錫高野は訝しげに眉を顰めたが、構えた体制を緩めた。それに内心ほっとしつつ

「お前、どうした」
「何…が」
「泣きそうな顔になってるぞ」
「は」

俺がそう言うと、錫高野はポカンッとした顔をした後、自分の手を顔に持っていって触ったが、訳が分からない。と言う風に首を傾げた。え、マジか、無意識か。

「どこが…」
「どこがも何も、酷い顔してんだよ!!」
「はぁ!?」
「ったく…」

いつも、敵の視点でしか俺はコイツを見ていなかったし、コイツもそれは同じだろうが…。まさかあの錫高野が、こんなに自分の事に鈍感だとは。弱音を吐くのが美点とは言わないが、言うと言わないとではかなりの差があるものだ。ウチの白目なんて毎時失敗しては、ヘコんで弱音を吐くのを俺が叱咤しているぐらいなのだ。
ただ、錫高野のように、溜め込んでしかもそれを吐き出せないのも、それはそれで困ると俺は思った。

「苦労してんな、お前の先生も」
「お前に山野先生の何が分かる!!」

そう言うと、錫高野がグワッと噛み付いてきた。どうやら、自分の師をとても尊敬しているらしい。そんな人物がそばにいるなら、弱音ぐらい、吐き出しても良いだろうが、上に立つ俺の意見としては、全く頼られないのは寂しいものだ。
アイツも成長してんだなぁと思うこともあるが、明らかに辛そうにしてるくせに、頼ってもらえないのは本当に堪える。
そういう意味での、苦労してんな。だ。

「分かんねぇよ、お前の先生の性格とかなんて、ただ、お前、たまには先生に甘えたらどうだ?」
「は!?先生にそんなことできる訳が無いだろ!!」

あぁぁぁ!!分かってねぇ、コイツ全然分かってねぇ!!いや、自分が傷ついてることすら分からない鈍い奴だから仕方ねぇけどな!!めんどくせぇな!

「出来るとかできねぇじゃなくて!!甘えてもらえねぇ大人の気持ちってもんを少しは考えろって言ってんだよ!!」
「迷惑だろ!!」
「そう思ってることが迷惑だ!!ましてやお前なんてまだまだ、世の中の広さを知らねぇガキだろ!!大人を頼れ!!」
「…っ!!」

俺がそう言って、錫高野を怒鳴りつけると、奴は明らかに、驚いたように目を丸くした。
基本、六年生には見えない、大人びていると言われているのだろう。まさかのガキ扱いに、衝撃を受けたようだ。

「誰がガキだ!!」
「あ?」

ガキ扱いに憤慨する錫高野は、いつもの大人びた雰囲気はどこへやら、ガキ扱いするなと叫ぶその姿こそ、今まで見た中で一番にガキっぽくて俺はその顔を見て思わず笑ってしまった。

「ぶっはっ、ははははっ!!!」
「笑うなーー!!!」
「だ、おま、言ってること、むっ矛盾、ふっ、ははははっ」

何だか安心した。鈍感で人頼らないけど、コイツはまだやっぱりガキだ。大人びてるけど、ガキって言われてムキになるぐらいにはガキだ。良かった。

「良かった」
「…何が」
「お前がガキで」
「だからっ!!」

あのな錫高野。

「俺も若い忍頭だからよ、色々言われるんだよ、俺はまだ29歳だぜ?」

そりゃぁ俺も若いときは色々ありました。今もだけど…。

「頼れる人ってのもいなかったよ、俺の若いときはな」

だからこそ、まぁ白目含め、自分の部下は大事にしようとは思っているが…。

「お前が感情の豊かなガキのうちは、まだ泣いたり出来るだろ、まして尊敬する師がいるならさ、俺はお前が羨ましいぜ?」
「っ」
「だから、錫高野」

なぁ、

「苦しいときは泣いても良いんじゃねぇ?」

少なくとも、今は大丈夫。

「…っ」

そう言うと、錫高野の両目から突然涙がポロポロと零れた。

「は?」

本人は何故泣いているのか訳が分からない。と言う風に両目を腕でこするが、それでも涙は止まらない。
ほらな、

「やっぱり泣きたかったんじゃねぇか」
「?」

俺はそう言って、その自分より小さい頭に腕を伸ばした。敵同士なはずなのに、その腕は、振り払われることもなく、すっぽりと錫高野の体を包み込んだ。

「悪いな」
「…ふ…うっ…な、で」

抱き締めた体の背中を、子供をあやすようにポンポンッと叩いてやる。

「本当はお前は、俺の腕なんかで泣くべきじゃねぇんだけど」
「うっ…ふ」

この子供を本来抱き締めて、泣かせてやる場所は俺じゃないけど。

「今はこれで我慢しろ」
「うぅ…ひっく…」
「あー…ったくよぉ」

抱き締めた体を宥めながら、俺は内心、まいったなぁとぼやいた。
興味があるだけで近付いた。ただの実力のある敵の忍の子供だったはずだった。
けど蓋を開けると強がりで鈍感な泣き虫だ。

「本当に…」

そんな遥か10も年下の少年に

「参った」

惹かれはじめている自分がいた。


泣かない子供

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