言わなくても分かること

「んっ」

留三郎が急に両手を伸ばして来たので、俺は何だ?と振り返る。

「ん?」
「んーんっ」
「はぁ?」
「んっ!!」
「えーっと…」

何だか良く分からないが、何も言わないくせに、両手を必死に伸ばすその姿が『抱き締めろ』なんて言っているように見えて、俺は取りあえず、留三郎の両腕を取って、その体をスッポリと抱き締めた。

「これで、良い…のか?」

そうやって抱き締めたまま、腕の中の留三郎に聞くと、留三郎の耳は真っ赤になっていた。

「…もん…じろう」
「ん?」

そうやって、抱きついた両腕が、俺の服を掴んで縋って来るので、俺は内心、動揺した。
留三郎が素直に甘えてくるなんて珍しすぎて、どう対応して良いか分からない。でも、俺は出来るだけ優しく

「どうした?」

と聞いてみた。俺に縋りつく留三郎は、

「この前…」

と、ポツリポツリと話し出した。

「街中で、恋人同士の男女を茶屋で見かけたんだ」
「あぁ」
「で、彼氏の方が、彼女にお茶をんって差し出したら、彼女はまるで分かってました。って感じで受け取るんだよ」
「あぁ」
「それでな、彼女が団子を彼氏にんって差し出すと、彼氏も同じように、団子を彼女の手からほうばる訳だ」
「なんつーか」

それって、出来立てほやほや熱々の目も当てられない恋人同士じゃねぇか。

「んだよ、バカップルがって思って俺はイラッとしたんだが」
「イラッとしたのかよ!!」
「あれでイラッとしない奴がいたら見てみたいっつーの!!で、でもそれと同時に…何も言わなくても理解し合える関係って羨ましいなぁっと」
「え…」
「お…思った訳だよ、俺は」

そのまま、語調がどんどん小さくなって行く留三郎を見ながら、俺は自分の胸がジワリと温かくなるのを感じた。
あぁ、バカだなぁコイツ、可愛いなぁ…。

「で、試してみた訳だな?」
「…」

俺がそう言うと黙ってしまった留三郎の耳は、先程見たときよりさらに赤くなっているように感じた。
俺は、抱き締めたその留三郎の背中を、ポンポンッと軽く叩いて、で?と聞いた。

「試して見て、どうだったんだ?」

留三郎の反応を見れば、どうだったのかぐらい分かるが、ここはやはり本人に聞きたい。と言うのが男心な訳で…。
俺に抱き締められて顔の見えない留三郎は、暫く黙った後、どこか嬉しそうな声を出して、

「ごーかく」

と一言。その言葉に何だそりゃ、と俺は笑いながら、それでも留三郎の言葉に満足した。俺たちならその変のつうかぁの仲なんて目じゃねぇだろ。と、俺は思いながら、留三郎の真っ赤になった耳に小さく口付けた。

しかしその光景を、他六年に見られていた俺たちは、その後『リア充爆発しろ!!』との称号を頂いた。俺たちもあのバカップルに負けず劣らずのバカップルであり、あの二人にイラついてる場合じゃないことは、素直に認めようと思う。


言わなくても分かること

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