逆転絵本と貯金箱

IF話
(連載の絵本と貯金箱の主人公二人の設定が逆だったら)
潮江→絵本作家、容姿がトラウマ、基本無口で人嫌いだが食満には段々心を開いている模様。
食満→借金王ハウスキーパー、明るく元気。人の痛みが良く分かる良い人。潮江と仲良くなりたい。
立花→潮江の担当編集、潮江の幼馴染だが、潮江のトラウマになった高校時代は違う学校だった。




俺の名前は食満留三郎、先月から、ハウスキーパーとして、絵本作家、潮江文次郎さんの下で働いています。
潮江さんは男前にも関わらず何故か自分の容姿をとても嫌っていて、かなりの人嫌いでもあります。
確かに隈はすげぇなぁとは思うけど、俺は普通にカッコいいと思うんだけど…。

「潮江さん、コーヒーどうぞ」
「…ありがとうございます…」

潮江さんは、基本無口な人だ。あんまり笑わない。幼馴染の立花さんいわく、昔は良く笑う人だったらしいが、何かしらのトラウマのせいで、めったに笑わなくなってしまったらしい。
けど、人嫌いと良いつつ、潮江さんは基本、他人を目の前にしたときは普通に喋るタイプだ。しかしその後、気分が悪くなって、ファンの人と握手して帰って来た日は、かなりの自己嫌悪に陥って、洗面台から頑なに動かない。

俺の場合、最初こそ潮江さんは俺に警戒心丸出しだったけど、とある事件をきっかけに、少しだけ距離が縮まった。

『大丈夫だから、潮江』
『…っ』

そうやって、抱き締めた潮江さんの体は酷く冷たくて、俺は確かに、彼を守ってやりたいと思ったのだ。
あの冷えた体は、正直俺の肝をかなり冷やした。この人放って置いたらすぐにどこかに消えていなくなりそうで怖い。

抱き締めたときも、泣くのを堪えるだけで、潮江さんは涙を流せなかった。
俺はそれが、酷く切なくて悲しいのだ。

だから俺は、今は全面的に潮江さんの味方。
潮江さんを傷つけるようなことを言う奴には俺は容赦しません。

けどそんなことがあって、俺は少し潮江さんの心に入る隙間を貰った。
現に、潮江さんが俺からコーヒーを受け取って飲んでくれているのが、俺は心底嬉しい。
実は最初のとき、コーヒーを入れたら、「俺の口がついたものなんて、触んないでください!!」と盛大に怒られたからだ。
実はその前、立花さんが普通に潮江さんにコーヒーを入れているのを見て、俺は内心かなりムカつきました。
誰に?立花さんにだよ!!だってそれって、潮江さんの…まぁ彼がそう思い込んでいるだけだけれど…汚い部分に触れても立花さんなら大丈夫って思われてるってことじゃん。悔しかったんだよ。

つまり今コーヒーを素直に飲んでくれてるってことは、俺は潮江さんの心の隙間に入ることを許された訳だ。
だから嬉しい。

潮江さんはコーヒーを一口啜ると、あ、と小さく声を出した。

「え?」

嘘、もしかして不味かった?と不安になる俺に、潮江さんはただ一言

「このコーヒー…美味い」

とだけ呟いた。
その一言に、俺は自分の顔が見る見るうちに赤くなっていくのを感じた。

「そ、うですか…」

赤くなった理由は、潮江さんに美味しいって思って貰えたこともあるけど、何よりも。

「はい…美味しいです」

普段無口で、表情も固めな潮江さんの、少しだけ口角が上がった嬉しそうな顔を、見てしまったからだ。

「…っ」

何だそれ、何だその柔らかい表情。そんなのっ


反則だろ!!!



こうして潮江さんの新たな一面を知ってしまった俺は、潮江さんとの友情を築くような関係が、少しだけ傾いた方向に向かっていっているような気がして、頭を抱えたくなった。


逆転絵本と貯金箱

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