甘やかしたい

俺はアイツを甘やかしたいのだ。
素直じゃないのは充分承知、だからこそ屈伏させて俺に甘えろと言ってみたい。

こんなんじゃ俺が変態みたいだが、アイツは本当に素直じゃないから、こんぐらいはやらないと向こうも折れないだろう。

だから


「だから…何で…」
「ん?」
「この体勢何だよ!!」
「…一から説明すんの面倒」
「面倒くさがるなっ!!」


俺は留三郎の頭を膝に載せて、帳簿計算をしていた。そもそも何でこんな風になっているのかと言うと。


「もっ文次郎…」
「留三郎?」
「さっ……」
「寒い…っ」
「はぁ?」


いきなり会計室の障子を開けたかと思いきや、開口一番『寒い』
どうやら長期任務だったようで、服はボロボロで目尻に隈が出来ていた。お帰りと言ってやる暇もなく、留三郎はズカズカと俺の目の前にやってドカッと座る、そのまま、コテンッと俺の肩に頭を置いて。


「……留三郎?」
「……すー……」
「寝やがった…」


安心しきったようにスースー寝息をたてる留三郎を見て呆れる。
嵐のように来ていきなりそれか、だがしかし、甘えられているようで気分が良かった。

「留三郎…おやすみ」




と、まぁそれだけである。
俺は留三郎が寝やすいように、自分の膝に留三郎の頭を置いておいた。

恥ずかしそうにしている留三郎の頭をひと撫でしてやると、気恥ずかしそうに身じろぐ留三郎は、悪態をつく。


「くそっ、何で俺文次郎のところなんかに行ったんだ」
「なんかとはなんだ、このやろう」

少しイラッときたので、撫でていた頭をグリグリと掻き回す。

「ちょっ、やめ!!」
「問答無用!!」


グリグリワシャワシャ、頭を撫でる手に若干力を込める。逃げようとするが、俺の膝に頭を載せて、仰向けに寝転んでいる状態なので、抵抗らしい抵抗も出来ない。

「やーめーれぇぇ!!!」



それから暫く、留三郎の髪紐が緩んで、ボサボサ髪を作り出した。

「……」
「……」
「ぶっ…」
「お前なぁ…」

自分でやったは良いのだが、留三郎のそんな姿を見て思わず吹き出してしまった。
そんな俺を、留三郎がジト目で見つめ。膨れた。
そんな留三郎が可愛くて、俺は素直にそれを口にする。


「可愛いなぁお前は」
「……」

そうやって、今度はボサボサになった髪を直すように優しく撫でてやる。そうすると、ボッと面白いほど真っ赤になってしまった。


「……っまえは……」
「ん〜?言っておくが今暴れたら俺キレるから、決算狂ったらお前にやり直し要求するからな」
「!!?………〜」

反論して暴れようとし始める留三郎に先手を打つ、そう言って算盤をちらつかせるとビシッと固まった。
決算苦手だもんな、お前。


「畜生…何で計算なんてものがこの世に存在してるんだ」
「お前な……」


悔し紛れに言うくせに、赤くなった顔を腕で覆って、留三郎は抵抗を諦めた。
それで良い。


「お前は、もっと俺に甘えれば良い」
「………」
「素直じゃなくたって構わない。知ってる。でも、お前が疲れてるときとかぐらいは、甘えてこい。」



そのまま、留三郎の顔を隠していた腕をどかして、口付けた。



「なっ!!?」
「ん?」


一瞬驚愕

次に思案

その次に


「なっにすんだ……」

赤面


「ん?」

ニヤリと笑ってワザと帳簿をパラパラとめくると、グッと押し黙った。
キッと睨みつけられた訳だが、俺はその続きを知ってるんだ。


「………文次郎」
「………はいはい」


諦めて溜め息をついて、俺の服の袖を引っ張る。

甘えたい合図
屈伏の証拠

「もう一回……」


君が望むなら

「おう」

何回でも何千回でも、甘やかしてあげよう。


俺は、もう一度留三郎に口付けた。




甘やかしたい
ある意味、『コイツ』をそうさせるのが、最近の俺の『悪い趣味』とも言える。
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