好きを叫べ!! ※恋人前提 なんか色々耐えられなくなった留三郎の話 チリンッと、夏の暑さに涼しげに風鈴が揺れるのを見て、団扇を仰ぐ 熱い、熱いよー助けてくれー、なんて言ったところで、お天道様が助けてくれる訳もなく、縁側の廊下にダランと倒れた。 最初はヒヤッとしていた足を入れている桶の氷水も、生ぬるくなってしまった。 勿体無い、せっかく高い氷だったのに…。 そんなことを考えていたら。 「ひっ」 首筋に何か冷たいものが押し当てられ、思わず短い悲鳴を上げてしまった。 それが結構恥ずかしくて、首筋に当たった物の正体と当てた人物をキッと睨みつけると、その人物はニッと笑った。 「涼しいだろ?」 「文次郎…まぁ…確かにそうだが…」 首がひんやりと冷やされて、体全体に冷たさが広がる。 それの正体は、水で濡らした手拭いだった。 「無駄に氷使うよりもそっちの方が良いだろ」 「ん…」 心地良い首の冷たさに満足する。 「で、暑くなったらまた水つけて冷やせ」 「ん〜」 「なんだよその返事は」 「お〜」 苦笑する文次郎は、俺に限り甲斐甲斐しいところがあるので、放っておいても勝手に水をつけて首に押し当ててくれるはずだ。それを踏まえての生返事。 『俺に限る』と言うこの特別は、素直に心地いい。 普段お堅い恋人の、恋人だけ特別視する姿を自慢に思う俺の気持ちは分かるだろうか? なんて言っても相手は頑固一徹な文次郎、その文次郎が優しい笑顔で無条件で甘やかしてくるのだ。 …正直、嬉しい。し、落ちないヤツはいないと思う。のっノロケじゃないからな!!?相手の意外な一面を見てときめく、なんて、ほら、良くあるじゃないか!! 文次郎は、あの見た目からは想像も出来ないくらい家庭的なんだぞ!!料理なんてそこらの女にも負けてないし!!そうだ今度仙蔵に自慢してやろう。俺の恋人はお前が思ってるほどカッコ悪くない………ノロケか…。 誰にともなく言い訳やら恋人自慢を心の中で繰り返していた俺は、結局はそれがノロケだと気付く、だって…な? みんなコイツの魅力なんて全然気付いてねーんだぜ? まっまぁ知られても俺が困るが…。 顔はよく見れば端正で男前だし。 「留、分かってんのか?」 「わかった〜」 「適当に言うな!!…ったく」 それに俺が一番好きで一番弱いのは…。 「しょうがねぇなぁ」 この困ったような低い声と、でも全部許してくれている笑顔。 「……〜っ」 あぁもう!!あぁぁぁもう!! この顔を見るたびに、叫び出したくなるようなむず痒い感情が、むくむくと湧き上がる。 いや大好きだけど!! これを全部無意識でやってのけるんだからコイツもそうとう質が悪いって言うか、悪いだろう、うん。 心なしかキラキラ輝いて見えるのも惚れた欲目だって言うのはよーく分かってるんだ。 あぁもう…暑い。 腕を伸ばせば手の届く距離にいる恋人に、俺は思わず口付けた。 「好きだ馬鹿野郎!!!」 この思いなら夏の暑さにだって負けてやらない自信がある。 好きを叫べ!! 突然口付けて最初に見た文次郎は顔を真っ赤にして叫んだ。 「流石アホのは組だアホ、お前にアホの勲章をやりてぇ気分だ、このアホがぁぁぁ!!!」 「何で怒鳴るんだよ!!後アホ言うな!!」 「やることが唐突で支離滅裂なんだよ!!」 「あっ文次郎、顔、あか……」 「うるせぇぇぇ!!!!」 顔を真っ赤にして、叫んだ文次郎は不意を突かれたのが悔しかったのかなんなのか俺に口付けた。 勿論好きの言葉も忘れずに ジワジワ暑い夏に負けない。 二人だけの時間が始まった。 [back]/[next] |