04

真っ直ぐな生き方


さーて、皆様こんにちは、こんばんは?それともおはようか?あ、ちなみに現在は午後5時くらいかな、掃除とかしてたからさ、まぁでも実際、ターゲットは大学の講義でこれぐらいの時間にならないと時間空かない人だから、遅いとかは別に良いんだ。良いんだぜ?

それよりも…。

「留さ〜ん」
「……」

肝心の食満博士が引きこもって取材がキチンと滞らないことの方が問題であってだな…。
とりあえずドア越しに挨拶。

「えっと、ドア越しで失礼します。この度、博士の取材をさせて頂くことになりました。記者の潮江です」
「…同じく、カメラマンの錫高野です」

与四郎がどことなく元気が無い。そりゃ、俺には柔らかく笑っていた食満博士だったのに、与四郎の顔を見た瞬間に扉をバンッと閉められたのだ。俺が与四郎の立場だったらちょっと落ち込むわ。しかし仕事はしっかり主義の与四郎は、自己紹介はしっかり行った。

偉い偉い、という意味を込めて肩をポンポンっと軽く叩いてやると、苦笑いされた。
これが通常時だったら半泣きして抱き付いてくるところだ。


「後で酒でも何でも付き合ってやるよ」
「おっとこまえー」
「そりゃお前だろ」
「いやいや」

ヘラリと笑った与四郎の元気が少し回復したのを見て、俺は再び扉を見る。さて、どーしてくれようかな…。

「留さん極度の人見知りなんです…」
「あー……」
「最近、他の教授達から、イジメとかもあるみたいで…ますますそれに拍車が…」
「イジメ…?」

ピクッと与四郎が顔をしかめた。あぁ、与四郎はそういうの人一倍嫌い何だよな…。

「大方若い天才を目の敵にしてる根性が腐りに腐ったおっさんどもの集まりってとこか?」

半分キレている与四郎を横目で見て、ふと、人の視線を感じた。はー、なるほどなぁ。

「こら与四郎、流石に敵地本陣でそれを言うと誰が聞くか分かんねぇだろ?」
「「………」」

ニコリと穏やかに宥めたつもりが、二人に、恐ろしいものを見たような顔をされた。

「敵地…」
「本陣……」

二人を見て、俺は何か間違ったことを言っただろうか?と首を傾げる。

「だってそうだろ?何で食満博士があそこから出て来ないのかって言ったらさ、他の教授がどこに潜んで、どんな話を聞いてるか分からねぇから、俺達が今いる場所は他の教授達も自由に行き来出来るみたいだしな」
「だから、敵地本陣?」
「ん」

だからさ

「その証拠に、いつまで俺達を見てるんだ?」

広い、室内の窓側を振り返ると、白い白衣を身に纏った老年の男が現れた。
くたびれた背中に、意志の弱そうなその顔は、明らかにこの男の立場が弱いことを物語っていた。でも、その顔は酷く申し訳なさそうで、男が不本意でやっているのは明らかだった。

「ひっ」

男は飛び上がると、急いで窓際から離れていった。
善法寺さんや与四郎は気付いてなかったみてぇだけど、俺の目は誤魔化せないぞ。

二人ともポカンと口を開けて、窓際を見ていたが、俺は逆にこんなストーカーじみたことをされるまでに至った経緯を知りたくなった。流石に異常だろ。
いくら、目の敵にすべき若い天才博士と言えども、わざわざプライベートな会話まで聞きにくるなんて……。

「……まただ……」

善法寺さんが絞り出すような声を出した。


「また?」
「あの人、教授ではなくて、教授の助手の人なんですけど、前にも何回かここに張り込んでいたんです」
「……あぁ」
「でも、悪い人じゃ無いんですよ、ただ教授に逆らえないだけで、留さんを自分の孫みたいに思っててくれてたんです。」
「……成る程」

気の弱そうな男ではあったけれど…あの顔を見れば良く分かる。

「ここにあるお菓子、殆ど、あの人が持ってきてくれるんです。食満君があんな風になったのは自分のせいだからって…」
「自分のせい……」


取材を頑なに断る若き天才。

しかし生徒からの評判は良く、兄貴体質。

室内を埋める大量の菓子。

教授達のイジメ。

引きこもる男。

張り込むくたびれた立場の弱い老年の男。

若き天才を孫のように思い…。

男がこうなったのは、老年の男の……。



あぁ…そうか、少しだけ…繋がった。




「文次郎?」

考え込む俺の隣で、与四郎が心配そうに声をかけた。

「大丈夫か?」
「いや、大丈夫だ」

そう言って、手を振るが、俺は今凄く、複雑な顔をしていると自分でも理解しているので、説得力はあまり無い。そんな俺の肩を与四郎はポンッと軽く叩いてくれた。

「無理すんなよ」

その優しい言葉に、俺は、いつだって救われていたのに。

「なぁ与四郎…自分の我を通してしまう人間は、いつだって人生損するよな」
「そう…だぁな…」

与四郎が言葉を詰まらせる。与四郎は、カメラマンの仕事に誇りを持っている。いつだって、自分の納得の行く写真を撮りたい筈だ。だが、気に入った作品を、上からの圧力で出させて貰えないこともあれば、まだ納得がいかないのに、そこそこの出来のものを、世の中に出さなければ行けないこともある。それでも我を通すなら、それは自分の居場所や、好きな場所を無くすことにも繋がる。それは恐怖だ、自分の好きな世界で、自分だけが孤立する。世の中は妥協が必要なのだ、どんな時でも、だが、だからこそ、人は、真っ直ぐな生き方をする人間に憧れや嫉みを持つ。

俺が記者を辞めたのは、何とも情けないが、置いていかれる恐怖に勝てなかったのだ。どんどん出世する。昔の同僚を眺めながらの日々に…。心の中では嫉みだって沢山ある
。俺をいつまでも出世出来ない奴だと馬鹿にする奴もいた。俺は…負けたのだ。何かあれば、いつだって話を聞いてくれる仲間は沢山いたのに…。
『あの場所』で、一人になることが、ただ、俺の恐怖だった。


だが、食満博士は違うのだ。

俺とは違う『真っ直ぐな人間』なのだろう。

だから、


「さっきの男の人と、食満博士の引きこもり、何か関係がありますよね?」

善法寺さんに確かめるように聞くと、善法寺さんはゆっくりと頷いた。

「……はい」
「憶測ですが、最初にイジメにあっていたのはあの男の人、かと」
「……」
「こちらに来る前に、食満博士について、こちらの生徒さんに話を聞いたところ、子供好きで兄貴体質…世話焼きだと聞きました。余程の事が無い限り、そんな人物が引きこもるとは考えにくい…」
「えぇ…彼は、本当は明るくて…優しい人なんです」
「……先程の男性は食満博士を孫のように可愛がっていた。しかし、先程も言ったようにイジメにあっていたのなら、自分を可愛がってくれている人のピンチを、世話焼きの食満博士が放って置くはずが無い。と俺は思うんです。」

俺の瞳から、善法寺さんも瞳を逸らさない。

「となれば、助けた食満博士に標的は移り、教授に逆らえない。あの爺さんは、食満博士を裏切る形になるなぁ」

俺の台詞を引き継いで、与四郎が語る。その表情は、どことなく寂しげだ。

「信頼してる人に裏切られたりするのは、誰よりも辛いことだぁな」

今にも泣き出しそうな与四郎の頭を軽く撫でてやる。

「文次郎…」
「大丈夫だ」

俺は、真っ直ぐには生きられないけど、

「お前を裏切らない」

そうだ。俺は仲間を裏切らない。それだけは、絶対にだ。

「…そっか、そうだよな」
「おう」

俺の顔を見た与四郎は嬉しそうにヘラリと笑った。何だよ、そう言う顔されるたら、こっちまで嬉しくなるだろ。
そんなことを思いつつ、与四郎で少し和んだ俺が、善法寺さんをまた見ると、彼は諦めたように肩の力を抜いた。

「凄いなぁ…流石、留さんが選んだだけあるなぁ…」
「え?」

選んだ…?

「あのね、潮江さん」
「はい」
「私は、留さんの…食満の力になりたいんです。でも、それをするには、私には力が足りない」
「はい」
「だから、助けてあげて欲しいんです。初対面であったばかりの奴が何を言ってるんだって思うかも知れない。けど、食満は、アナタに助けて欲しいんだそうです」

は…?

「何で、俺…」
「それは、彼に話を聞かないと分からない」



閉じられた扉が、半分だけギィッと音を立てて開かれた。



「留さん?」
「伊作…」

食満博士の顔は見えない。

「ここから先は、潮江さんだけ、中に入って聞いて貰っても良いか?」

どこか、申し訳なさそうな、どこか警戒したようなその声は与四郎に向けられていた。


「あの、さっきはすいません。俺は、潮江さんだけが来るものだと思っていて焦ってしまって…まだアナタを信用出来ないんです。でも伊作は必要だって言うし、潮江さんも、凄く信頼してるみたいだから、だから、キチンと話せるまで、少し待ってください」

必死なその声を聞いて、与四郎は、ポカンッと扉を見つめていたが、何がツボに入ったのか急に笑い始めた。

「ハハハ!!」
「え?」
「うん、良いですよ、食満博士、ウチの潮江を貸し出しましょう」
「おい…」

俺は物じゃねぇんだけど…。与四郎を軽く睨むと、ニヤッと笑って此方も見てきた。
あ?何だその顔…。

「でさ」

食満博士にかける与四郎の声は、とても優しかった。

「文次郎と話し終えたら、俺と交流でも深めて貰えると良いなぁって思うんです」
「え…」
「どうですか?」

扉の向こうの食満博士は

「ありがとう」

弾んでいて、とても嬉しそうだった。

「……」

ちょっと、いや、本当にほんのちょっとだけど。


与四郎にイラついたのは、何でだ…?


「んじゃぁ文次郎、行って来い」
「え、ちょっ!!」



そう言うと、与四郎は俺を扉の向こうに押し入れて、バタンッと扉を閉めた。

何なんだアイツは!!

どこか理不尽さを感じながら、室内をグルリと見渡す。最初に目に入ったのは
どこか恥ずかしそうだが、とても嬉しそうな。

「はっ、始めまして」
「っ始めまして…」

食満博士で、しかも凄く可愛かったので、まぁ良いか。と思うことにした。


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