02

世話係登場!!

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ごめん、ごめん、夢を諦めるなと言ったのは俺なのに。
俺が諦めてしまってる…。

君は、今、自分の夢に向かって、生きているだろうか…。

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「…ろう、文次郎ー!!!起きろー!!」
「うぉっ!!」
「…どうした?」
「いや…昔の夢を…ちょっと?」
「ふ〜ん?」

少し、昔の夢を見てしまっていた俺は、与四郎に起こされて、目が覚めた。
俺たちの職場から、車に揺られて片道五時間もかかる。山奥にある大学の中の研究所、そこが、食満留三郎のいる場所だ。
普段は、大学の講師として働いているようだが、それも講義のときにしか姿を現さない。大学関係者以外は、講義に参加することは基本禁止とされているので、やはり、そこで食満博士の姿を見ることは出来ない。
生徒が隠し撮りをしても、本人がすぐに見つけてしまうそうだ。
ちなみに、愛称は、留さん、留ちゃん先生、などなど、意外に講義中はとっつきやすく、明るい人物として有名らしい。いや、行く途中で出会った学生談によると、「あれは、年下が可愛いのだと思う…」なるほど、兄貴気質…か?

ちなみに今回の取材で、やっぱり頼んでもいないのに、カメラマンの与四郎がくっ付いて来た。今回の移動手段の車の運転も買って出てくれた。コイツ良い奴だけどなー…と思いながら、先日の土井編集長との会話を思い出し、疑問をそのまま口にした。

「なぁ与四郎ー…」
「ん?」
「お前、中々、他の相手と仕事しないって本当か?」
「……それ、誰情報?」
「編集長?」
「…まぁ、土井さんは良い人だから、制裁は無しにしといてやるか…」
「おいおい、今サラッと恐ろしいことを言ったよな!?やめろ、編集長に何かしたら怒るぞ」
「だから、やらないって言ってるじゃんかー」

どうやら、噂は本当のようだ。でも、何で俺に流れてこなかったのか…。

「お前が女タラシなのは知ってるが…仕事の好き嫌いはしねー主義なんだろ?」
「…それとこれとは話が別ですー」
「しかもお前、腕が良いことでも有名だって言うじゃねーか、俺なんかにくっ付いて来たって面白いことも無いだろうし…お前の為にならねーんじゃ…」
「…良いんだぁよ…文次郎は」
「は?」
「文次郎は、他の奴らとは別」
「??」

そう言った与四郎は、いつものお気楽な様子に似合わず、真剣な表情をしていて、思わず俺の口を黙らせた。それをチャンスとばかりに、与四郎は俺の背中をバシバシ叩いて話を逸らした。

「まぁまぁ、そんなことは置いといて、ほら、そろそろ着いたみたいだぁよ」
「…あ、本当だ」

目の前に大きく現れた建物、大学の校舎だ。俺達は駐車場に車を止める。
そこに、コチラに向かい手を大きく振る人物が向かって……

べシャッ!!

「「……」」
「なぁなぁ、文次郎、何か人が穴に…」
「何のことだ与四郎、俺たちは何も見てないぞ」
「いや、だって…」
「見てないだろ?なっ!」
「……」

普通の大学の駐車場に落とし穴なんか設備してあるか、ありえねぇだろ、って訳で俺は見てない。何も見てない。与四郎がまだ何か言いたげな顔をしているが、俺は見てないから!!

そのまま、校舎内に車を進めようとすると、目の前の穴から、大声が聞こえてきた。

「待ってください〜!!!」
「「……」」
「文次郎…」
「……っ」

与四郎がジトーっと俺を見る。それに俺がうっと詰まる。

「無視は良くないだぁよ」
「…うっ…」
「そこは文次郎の得意分野じゃんかー」
「いつから、俺の得意分野になったんだよ!!!」
「ツッコミだろー、巻き込まれるだろー、結局放っておけなくなるだろー」
「ヤメテ!!!」

与四郎が最悪なことを言い出したので、俺は与四郎の口を掌で押さえた。与四郎の言うとおり俺は、俗に言う、巻き込まれ体質で世話焼きなのである。
なので、自分でも分ってはいるが面倒なことに首を突っ込んでしまうことが多い。最近は人とあたりさわりの無い関係を保ち、深くは関わらないように心がけていたのだ。
しかし、あの穴に落ちた人物は、俺の中ですでに放って置けないランキングを着実に駆け上がり中である。穴に落ちるって、穴に落ちるって…っ!!認めたくねぇけど、でも、もう声掛けられたスルー出来なくなっちまった!!!誰ですかアンタ!!

「はぁ…とりあえず、助けるぞ…」
「さっすが!」

俺が大きく溜め息をついて、与四郎はパチンッと指を鳴らした。
車から降りて、大学内の駐車場に大きく開いた穴を覗き込んだ。

「大丈夫ですかー?」
「はは、なんとか」

一体どう言う技術を使って作ったのか、駐車場のコンクリートからは、その下にある、コンクリートは見事に砕かれ、下の土まで見えてしまっている。…誰が直すの?これ?

「と、とりあえず、引っ張り上げるんで俺の手に捕まってください」
「はっはい」

そう言って、手を伸ばし、穴に落ちた人を引っ張り上げる。

「よっと」

意外に軽々と持ち上がったその人物を穴から少し離した。

「すいません、ありがとうございます」

そう言って振り返ったその人にいえいえと言いかけた俺だったが。

「おぉ」

思わず、俺は感嘆の声をこぼした。目の前の人物が、かなりのイケメンでだったからだ。幼馴染の仙蔵は、昔から美形イケメンの枠だったし、与四郎は明るく気さくな男前イケメンではあるが、おぉぉ…初めてみた。優男風イケメン!!
後、これは別に俺が、面食いとかそう言うのではなく…。俺の容姿に反して俺の回りに顔の良い奴ばかり集まるから、自然にイケメンに目が行くようになっただけだ!!畜生!!しかし、良い顔と言うのはどんな性格であれ、人に好印象を与えるし、実際付き合えば、性格なんて何万通りもあるのだろうが、顔が良いと何でも許してしまうと言う気持ちは、イケメンに囲まれた俺にはちょっとだけ分る…。

ちなみに俺はと言うと、女性にモテにモテまくる友人たちに囲まれ、一応は童貞を卒業しつつ、しかし現在は彼女がいないフリー。容姿は老け気味、学生のときに、頭が良くないなりに努力して徹夜で勉強を続けた結果、取れない濃い隈。プラスして、あまりノリも良くないし、頑固なところもある。そんな俺のどこがそんなに良いのか、友人は多くいるが、その友人たちはイケメン揃い…と、ハハハ、畜生、彼女欲しいぜ。

そんなことを、引き上げた優男風イケメンさんの顔を凝視しつつ、考えていると、与四郎にスパンッと頭を叩かれた。

「こぉら!!相手さん困ってんじゃねぇか」
「だっ!!」

そこで、やっと意識を元に戻すと、目の前の人物は困ったように笑っていた。

「あ、すっすいません!!少し考え事をしていて!!」
「あ、いえいえ」

そう言って笑顔で返してくれるイケメンさんの優しさに感動しつつ、与四郎をチラッと睨みつけておく。何も叩くことねぇーだろ!!

「文次郎が集中してないのが悪いんだろー」

そんな俺に構わず与四郎も俺を睨み返す。仕事熱心だから、仕事に集中しないのは許せないところもあるのだろう。うん、それはやっぱり俺が悪いか…。

「…悪かったよ」
「〜っ、文次郎のそう言うところほんっと好きー!!」

そう言って抱きついてきそうな与四郎の腕を、自分の腕でガシッと掴んで制しながら、俺はポカーンとしてしまったイケメンさんに、自己紹介をする。

「あっ、すいません、俺達は食満博士の取材に来た記者です。私は記者の潮江。ちなみに、この私に抱きつこうとしているバカはカメラマンの錫高野です。こんなんですが腕は確かです。」
「こんなんってっ!!」

与四郎が喚いたが無視する。自己紹介をすると、どうやら俺達のことを知っていたのだろう。イケメンさんは、あぁと声をあげた。

「あなた方が例の記者さん達ですね!!」
「知ってらっしゃるんですか?」
「知ってるも何も、取材を許可した。食満の世話係の善法寺です」
「え…」

マジか!!

こうして、俺達と食満博士の世話係との変な出会いは始まった。

って言うか、こんなに穴に落ちるとか一昔前のギャグみたいなものに引っかかる人が世話係で、博士は大丈夫なんだろうか?とか。まずこの落とし穴作ったの誰だよあぶねーな。とか

俺はまた知らぬうちに世話焼きを発揮し始めている自分に苦笑した。


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