君の夢を知った放課後 留三郎の夢は、『宇宙飛行士』だ。それを俺が知ったは、高校二年の時、留三郎が、放課後、図書室に入り浸って、勉強していると言う噂を聞いて、嘘だろと思った。と、言うのも、留三郎はとても頭が悪い。いつもテストの順位は下から数えた方が早いし…あいつが真面目に勉強している姿…と、いうのは、とても異常に思えた。 まぁもしいたら、丁度俺も期末に向けて勉強しようと思っていたから、ついでにからかいに行くかなーと思って図書室に向かった。 そしたら、本当に留三郎が勉強していて驚いた。そんな訳で、普段勉強してないヤツが真面目に勉強していると、何をしているのか気になる。だから俺は、そーっと留三郎に近付いて、留三郎の手元を覗き込んだ。 覗き込んだ先は…。 「宇宙飛行士になるには?」 「!!」 咄嗟にバッと振り返った留三郎は、俺の顔を見て、確実に嫌そうな顔をした。 「何だ、文次郎かよ…」 「何だとは何だ、つーかその顔止めろ」 ちなみに、今回は図書室の番人である長次が不在の為、図書室は多少賑やかである。 留三郎に見つかった俺は、留三郎の隣に座る。 にしても、宇宙飛行士ねぇ…? 「お前、宇宙飛行士になりてぇの?」 「な!!」 そんな俺の質問に、食留三郎は目に見えて分かるほど顔を真っ赤にさせた。 え、図星か? 「宇宙飛行士か…」 「わっ悪いかよ!!」 留三郎は赤い顔のまま、俺を怒鳴ると、そのまま読んでいた本をパタンッと閉じてしまう。 そうして、俺を眉間に皺を寄せたままジッと見て、顔を伏せた。 「…」 「?」 「頭良いからって…バカにすんな」 「はぁ?」 その言葉に思わずムッとなった俺は、別にバカになんてしてねぇだろ、と怒鳴ろうとした…が、その言葉で、留三郎が、自分が頭が悪いことを気にしているのが分かって、思わず怒鳴るのを抑えた。 「別に…バカになんかしてねぇよ…」 あぁ、と思ってしまった。宇宙飛行士は頭が良いほうが絶対に有利に決まってる。でも留三郎は、学年テストの順位が下から数えた方が早いと言う人間だ。自分の夢を話して、お前は頭が悪いから無理、なんてことを、何回も言われてるんだろう。 それは少しだけ、俺と似た所がある。いつも、幼馴染の仙蔵を勉強で抜かしてやろうと思って頑張る俺に、周りはこう言うのだ。『無理だ諦めろ』って…。悔しいよな、お前に俺の何が分かるって思う。 でも、だからって卑屈になるのは違うだろ。目の前に広げられた。宇宙飛行士関連の本以外の、大量の勉強の本、何回も問題が解かれ、積み上げられた数冊のノート、目に見えて努力してるヤツをバカになんてしねぇよ。アホ。 俺の頭の中には、先程までからかいに行こう、なんて思っていた気持ちはなくなっていた。 「良いんじゃねぇの、宇宙飛行士」 「え?」 そんな俺の言葉に、留三郎はポカンッと俺を見つめ、で、でもと呟く。 「俺、頭悪いだろ?べ、勉強出来ないし、この前だって先生に、このままだと卒業出来ないぞって呼ばれて、今勉強してるだけだし…」 「それがどうした」 「…」 俺のシレッとした言葉に、留三郎は目を丸くして驚いている。 「お前が努力しなきゃいけないって気付いて、今勉強してるだけの努力を、これからも続けられるなら」 「…」 「お前は絶対期末で良い点取れるし、ヘタしたら仙蔵や俺だって抜かせるかもしれねぇ」 「お前を?」 「おう」 「俺が?」 「あぁ、いつも喧嘩してるじゃねぇか、俺を負かす勢いで来い」 俺は、勉強でも留三郎と競い合う姿を想像して、俺は何だか面白くなって来た。 あぁ、良いんじゃねぇの?勝負事は嫌いじゃねぇ、何より 「俺は…努力するヤツのほうが好きだ」 そう言うと、食満は呆けた顔をして、俺を見つめていたが、途端、ヘラッと子供のような笑顔に変わり。 「よっしゃ、覚悟してろよ、文次郎」 「おぉ、全力で来やがれ」 こうして俺は、留三郎の夢を知ることになった。 君の夢を知った放課後 [back]/[next] |