頑張る君にエールを 「〜であるからして、この公式は〜」 授業中、教師が黒板にカツカツよ数字を書いていくのをボケッと見ていた。俺は潮江文次郎(この形相で年齢を間違われがちだが、これでも高校三年生)は、今凄く眠い。 どうしようか、寝てしまおうか…いや、でもこの後授業についていけなくなるのは嫌だ。 同じクラスの学年一位の幼馴染、立花仙蔵の「お前はこんなものも出来ないのか」と言う高笑いが聞こえてきそうだ。 その光景を思い浮かべ、何となくムカついた俺は、姿勢を正して、黒板に集中することにした。 仙蔵と俺、二人とも努力は惜しまない方だが、なにぶん仙蔵の方が勉強の要領が良いので、やはりそこが自分との大きな違いだろうな、と思う。俺は、必死に足掻いて、分からないところは、何度でも、いや、教科書丸暗記の勉強だ。効率は悪いが仕方ない。 と、そんな出来の良い幼馴染を思い浮かべ、どこか苦い気持ちになっているところに、前の席の男が爆睡しているのを見て、俺は溜め息を吐いた。 俺の前の席の男、食満留三郎は、高校入学当初からの仲である。初めて見たときから、お世辞にも気が合うとは言えず、さらに、所属する委員会同士の確執もあり、俺たちの仲は最悪と言って良かった。ただし、三年という年月を重ね、今はどちらかと言うと喧嘩友達、と言う言葉のほうがしっくり来るような気がしている。いつもはいがみ合ってばかりの俺たちだが、これでも一応お互いのことは良いライバルとして見ているのだ。 そんな、俺の好敵手の将来の夢は…。 ズルッと、俺の前の席で寝ている留三郎の机から、宇宙図鑑が落っこちる。それから芋蔓式に、宇宙に関する本が、ドサーッと雪崩のように落ちてきてしまった。 「食満…」 あ、バカ…。と言う暇も無く、その光景を見ていた先生に、爆睡現場を見つかってしまった留三郎は、出席表を片手にした先生に、 「起きろ!!」 「だぁっ!!」 思いっきり、殴られた。 その事でクラス中がドッと笑い声で溢れたので、俺もその間抜けな光景に、一緒になって笑ってやる。 「まったくお前はいつもいつも!!テストの成績が良いからって、授業を聞かないんじゃ意味無いぞ!!」 「すっすいません!!」 そうやって、先生のお叱りを受け、やっと席に着いた留三郎が、ギッと後ろにいる俺を睨み付けた。 「起こせよバカ!」 小声だが、そんなことを言われ、俺は笑いながら、留三郎の机から落ちた図鑑を拾い、また小声で、 「お前が悪いんだろうが、バーカ」 と返してやった。そんな俺を、留三郎は悔しそうに見ていたが、チッと舌打ちして、俺から図鑑を受け取ると、体を前に向けた。 空は今日も青い、いつかあの空に、留三郎が行くことになるのだろうか、と、思いながら、俺は目の前の背中に、 「頑張れよ」 と呟いた。勿論、食満には聞こえない。 頑張る君にエールを [back]/[next] |