無重力世界への招待状



もう一度あの場所へ

「高校の時の屋上覚えてるだろ?」
「あ?」

数ヵ月後、やっとのこと帰ってきた留三郎と、久々に連絡が取れたと思ったら、一言目がそれだった。

「あの、お前が感動して泣いたあの場所だよ」
「…あぁ…ってうっせぇよ!!」

途端、俺に苦い記憶が蘇る。あの日に電話越しのコイツへの思いを自覚してしまったのを、俺は今でも忘れていない。
しかし、それと同時に、泣いたことを掘り返されたのに気付いて、それがどうにも気恥ずかしく、思わず怒鳴る俺に、留三郎は電話越しにハハハッと笑っていた。

「宇宙から戻って来たら、ちょっと付き合えって言ったよな?」
「あぁ」

あの何の内容も無いメールな…。

「文次郎、俺、あそこ行きたい」
「あ?」

コイツ今なんて言った?屋上?俺の苦い思い出ナンバーワンのあの屋上ですか?

「え」
「だから!!あの屋上に、もう一度!!」
「えぇ…」
「…何だその反応…」

電話越しに留三郎の不機嫌な声がして、俺は、自分の心を落ち着かせる為に一つ深呼吸。
久しぶりにここに戻ってくるアイツの我儘を聞いてやりないのは、やまやまなのだが、どうして、こうピンポイントで、俺の行きたくない場所なのか…。

「…本当に行くのかぁ?」
「行くってば!!」
「…俺と?」
「…バカにしてんのか?当たり前だろうが、文次郎は俺の傍にいるもんなんだよ、常識だろ」
「…!!…いつからそんなの常識になったんだよ…」
「昔から!!」

この数年でコイツはとんでもない常識を身に付けたようなのだが、悪い気はしないと言うか、むしろ嬉しいので、俺は電話越しでニヤけるこの顔をどうしようかと思案した。
そうすると、黙ってしまった俺をどう思ったのか、、留三郎はどこか不貞腐れた口調で、

「…文次郎が行きたくねぇなら、他のとこにする」

なんて言ってきたので、俺はさらにニヤける顔をもう止めることが出来ず。
我慢できずに笑った。

「ぶはっ、はっはは」
「なっ、何だよ!!」

急に笑い出した俺のその反応がお気に召さなかったらしい留三郎は、電話越しで怒鳴った。
あーあ、これが惚れた弱みってヤツなんだろうけどさ。

「ったく、しかたねぇなぁ」
「え?」
「一緒に行くか?学校」
「っい、良いのか?」
「おいおい」

そこで俺は呆れてしまった。あれだけ押し切っておいて…。

「行きたいんだろ?」
「お…う」
「俺はお前の、食満留三郎の傍にいるのが常識なんだろーが」
「ん」

それに、あれだろ?そのお前の傍に

「俺がいなくてどーすんだ」
「…っ」

電話越しで、留三郎が息を飲むのが分かった。

「〜っまえは…」
「あ?」
「そういうの本当、反則だろ…」
「え、何が?」
「…〜っ別に!!」

留三郎はそれだけ言って、電話をブチッと切ってしまった。

「え…」

え…俺、何かしたか…?

「え、えぇぇぇ!!!?」

その後、俺は突然切れた携帯電話片手に、留三郎を怒らせたのではないかと、散々焦って悩んだのだが、

後に留三郎から集合場所の指定のメールが来たことで、別に怒っていないことを察して俺は心底安心した。


もう一度あの場所へ
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