年賀状 与文与(虎年)


与文与

風魔忍術学園のお使いで、俺、錫高野与四郎は、新年早々、忍術学園に来ていた。

隠れて潜入しなくても良いので、普通に門をくぐって、入門表に名前を書いて入ってみたら、そこで忍術学園の先生と出会った。

「おぉ与四郎君、あけましておめでとう」
「土井先生!!おめでとうございます」
「お使いで来たんだろ?」
「はい」
「実はな……」

外にいるのも難だと、土井先生は職員室に俺を招き入れてくれた。暖かい茶に、ほっと一息つくと、土井先生は微妙な顔をして一つの手紙を差しだしてきた。

「……?」
「開いて見てくれ」

手紙を開くと、それは山野先生からだった。
内容は…

『たまには骨休みして来い』

だった。

「……は?」
「そう言うわけで、与四郎君には忍術学園に泊まってもらうけど任務はお休み、と言うか、休むことが任務だ」
「や、あの、土井先生」
「うん、色々と突っ込みたい気持ちは分かるけど、取り敢えず納得してくれたか?」
「はっ、はぁ…」
「そして私もこれから自分の家に戻らなきゃいけないんだ」
「はぁ……?」
「じゃぁ、まぁ楽しんで行ってくれ」


と、そんな訳で

『休み』を貰いました。

「って言っても…何もすること無い……」

喜三太は帰ってるだろうし…俺がいなかったら泣くだろうなぁ…。
忍術学園も冬真っ盛りで、殆ど人がいないのだ。

「これでどうやって休みを満喫しろと…?」

と、ここまで考えて、ある一人の人物の顔が浮かんだ。愛しい恋人の顔である。

「アイツなら、いるかも!!」

そして俺は、会計室に直行した。


「い…たぁ!!」

案の定、障子越しにアイツの気配と算盤の音が聞こえた。
思わず声に出して感動していると、障子がガラリと開いた。

「……与四郎?」

そこには、今一番会いたかった人物がいた。

「文次郎〜!!」
「ちょ、うわぁぁ!抱きつくな!!」

目の前の人物さえ居れば、俺の休みは十分に楽しくなりそうだ。

「あっワリィ」

叫ぶ文次郎を腕の中から解放すると、文次郎が眉間に皺を寄せて

「どうして、ここにいる…」

と聞いてきたので、先程までの一部始終を話して聞かせた。

最後まで聞き終わると、文次郎は盛大にため息をついて、

「取りあえず、新年の挨拶は?」
「ん?あぁ、あけましておめでとう」


すると、文次郎は俺に向かい正座して頭を下げた。

「あけましておめでとうございます」

文次郎は律儀な男である。まぁそう言う頑な所が好きなんだけど…すると、顔を上げた文次郎は、俺の顔をジッと見つめた。

「ようするに、お前は休みを貰ったんだな?」
「おぅ」
「なぁ与四郎……」
「ん?」
「お前、俺と遊びたいか?」
「え?」

文次郎の口からとんでも無い発言が聞こえて、暫く固まる。

「だから!!遊びたいのか!?」
「えっ、あっ遊びたい!!温泉とか初詣とか!!文次郎と一緒に行きたいべ!!」
「………」
「………」

それだけ言うと、文次郎はよしっと両頬をパシンッと叩いた。

「与四郎」
「ん?」
「決算が終わるまで暫く待て」
「…それって……」
「一緒に行きたいんだろ?俺だってなぁ…冬休みに任務で忙しい恋人が、忍術学園に来るなんて思ってなかったし…こっこれでも焦ってんだよ」

ブツブツと言いながら、それでもどんどん赤くなっていく文次郎に、俺はたまらなくなって抱きついた。

「文次郎可愛い〜」
「だぁぁ!!だから抱きつくな!!決算狂うだろうが!!」

そうしてギャーギャー騒ぐこと数時間、俺達は外に出ていた。

ザクッザクッと雪を踏みしめる足音が楽しく感じるのは、やっぱり文次郎が隣にいるからだ。

…文次郎は、俺の特別だ。恋人であることを除いても…。六年になって、一人になった俺の、寂しいなんて忍にはいらないと思っていた感情を、受け入れて、手を差し伸べてくれた存在。

『大丈夫だ、お前が苦しかったら、俺がいる。俺がお前の話を聞いてやるし、俺がお前の友達になってやる……な?』

そう言って、握りしめた掌は今まで握ったどの手より暖かかった。
初めて会ったあの日から、アイツは俺の手を引いてくれる。


「ただ…」
「何だよ?お前すぐにどっかにフラフラ行くだろーが!!手繋いどけ!!」
「う〜ん」

文次郎が全く意識してなくて悔しいって言うか…すぐにフラフラするのはやっぱり手を繋いで欲しいからなんだけど…。


「文次郎は、今年は何をお祈りするんだ?」
「……俺?あ〜…お前は?」

文次郎は暫く考えて、伺うように俺の顔を覗いてきた。

「言わない。言ったらお祈りって叶わないんだぁよ?」

それを見て、ヘヘッと笑うと、文次郎はムッとした顔になった。

「俺にぐらい教えろよ」
「その言葉、そっくりそのまま、文次郎に返すわ」

ザクッ、雪を踏みしめる音、ふと、この優しい掌は、いつか…俺から離れていくのかと考えた。

冬が終わらなければ良い、そしたら、道を歩けば、足跡が、二人で歩いた証になるからだ。
…春など来なければ良い。
目の前を歩く文次郎が、ふと、止まった。


「どうした?」
「…お祈りは言えねぇだろうけど、何かあったら、俺にちゃんと言えよ」
「え…?」
「お前は、何でもかんでもすぐに溜め込む、心の中で言うだけじゃ、わかんねぇ。俺は、言ってくれないと不安になるんだよ」

前を向いたままの文次郎の顔はよく見えない。ただ、大きい背中だなぁと思った。きっと、色んなものを抱えても、この男は逃げない。

「なぁ、文次郎」

お前は、言ってくれないと不安だとか言うクセに、俺の微妙な変化にしっかり気付くのだ。
そう言うお前が、愛おしくて堪らない。

ギュッと手を強く握る。我が儘を言っても良いだろうか?

「進路、もう決まったか?」
「…まだだけど……」
「なぁ、文次郎」

ずっと、一緒にいて欲しい。俺が苦しくなったらいつも傍にいて、俺のこと叱りながらも、また手を繋いでいてくれないか?

「風魔に来んか?」
「………は?」

手を繋ながら前を行く文次郎の手を引いて、腕の中に抱き締めた。

「うわっ!!」
「俺な、生まれた時から風魔で、忍になるために生まれてきた。だから人の温もりとか愛とか、全然わからなかったんだ。」

愛も恋も感情も、自分には必要ない。そう考えていたあの日。

「だけどな、文次郎、俺は、お前が、お前がいてくれたから、変わったんだよ」

笑うことの喜びも、泣くことの苦しさも

「お前が俺を変えたんだから!!責任取って、俺の所に来い!!」

息継ぎ無しでそれだけ言うと、腕の中の文次郎が、急に吹き出した。

「アハハ」
「笑うなよ!!こっちは真剣に…っ」

そのまま、グイッと襟首を掴まれて、唇が触れた。

「なっ……!!」
「いやな、与四郎が標準語で喋ってるなぁって」

にんまりと微笑む文次郎と、カァァと、顔に熱が籠もる俺は、文次郎をキッと睨む。はんば八つ当たりに近い。

「当たり前だぁ!!お前が重要なことはお前に分かるように話せって言ったんだだろ!!」
「そうか?」
「そうだよ!!」
「後、責任取れって、お前はどこぞの婚前前の嫁かと」

アハハッと腹を抱えて笑い出す文次郎に、俺はふてくされた。もうコイツなんて知らん。だけど、やっぱり抱き締めた腕は離せないから、俺も大概文次郎依存症なのかも知れない。

「お?怒ったか?」
「……」

プイッとそっぽを向くと、文次郎が困ったように笑った。

「なぁ与四郎」

文次郎が穏やかな声を出すが、それでもやっぱり知らんぷりを突き通した。


すると、フワッと体が浮いて、文次郎におんぶされる形になった。

「うわっ」
「しょうがねぇなぁ」

思わず文次郎の首に手を回すと、ジワジワと体に熱が広がった。

子供体温……

「ほんとに」
「何だよ……」
「責任取ってやるよ」
「え?」

その言葉を聞いて、俺はますますギュゥと抱きついてしまい。

「ちょ!!」

文次郎は顔面から雪に突っ込んだ。
俺は文次郎の背中に乗っかる状態になる。

「う゛〜〜」

唸っている文次郎の為に、少し背中から体を浮かせると、ゴロンッと仰向けになる。

「何しやがる!!」

雪が衝撃を吸収したようだが、やっぱり寒かったのだろう。真っ赤になった顔がそこにはあって…

「文次郎…」
「…………」
「好きだぁよ」


そう言って、ゆっくり文次郎に口づけた。
俺は今、どんな顔をしているんだろう。頬の筋肉が引きつる。あぁ、嬉しい。目の前の恋人が凄く愛おしい。

文次郎は仰向けになったまま、雪の衝撃で赤い顔が更に真っ赤になってフイッとそっぽを向いてしまった。

「文次郎?」
「……何だよ、今年は初詣なんかしなくても……夢叶ったじゃねぇか…」
「え……?」
「…………あ」

自ら墓穴を掘った文次郎に笑みがこぼれる。

「じゃぁ初詣行かんの?」

文次郎の上から立ち上がって、手を差し伸べる。

「笑うなよ…行くよ、せっかくここまで来たんだから」

文次郎は俺の手を取って、また俺の前を歩き出す。

春なんて来るな、何て思ったけど、早く春が来れば良いのに、と思った。
今年の春、風魔の忍服を纏った目の前の恋人を想像して、俺はまた強く手を握った。


(終)
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