クリスマス続き



クリスマスと言えば、年に一度の特別な日で、与四郎は、潮江家でご馳走を食べて、自分の家に帰ってくる。サンタのおじさんは、貧乏ながら、ちゃんと欲しい物を買ってくれた両親だった。

与四郎だってバカじゃない。小学校二年生のときにはその事実に気付いてしまい。サンタのおじさんにリクエストするプレゼントは、両親がなるべく使える物を頼んできた。
そして数年たてば、流石に周りもサンタはいないと気づきはじめ、両親もそれに気付いて、プレゼントは手渡しにしようとしたが、与四郎は流石にもういらないよ。と言ってプレゼントを貰わなくなった。


「小学校の頃からオラのサンタに対する夢は無い訳なんだけんど…」


文次郎…文次郎だけは、いくらいらないと言ってもプレゼントを押し付けてくる。

『俺の気持ちなんだから受け取っとけ!!それとも俺のプレゼントが受け取れねぇってか?』

…訂正、正確には脅されたの方が正しい。
だけど、その押し付け方が与四郎は嫌ではなくて、文次郎からのプレゼントが嬉しかった。
なんたって、修行中のときもワザワザ贈ってきたぐらいだ。誕生日にも贈ってくるし……。


そしていつも思っていたのだ。ここに、留三郎がいたら……留も、文次郎と同じ事をしてくれるんじゃないかなぁ。と、勿論、そのときの与四郎は、ただ思うだけで、文次郎と留三郎と一緒に、クリスマスが出来るなんて考えていなかったが……。





「だから、三人一緒のクリスマスが嬉しいんだぁよ」


飾り付けられた潮江家の部屋、チキンにケーキにワインに、深夜過ぎの三人の夕食…は、豪華だった。
与四郎の言葉を聞いて、文次郎が照れた。

「なっ……!!んでお前はいつも食事中に恥ずかしいこと言うんだよ!!」

そう良いながら、皿に与四郎の好物を多目に盛ってくれるあたり、文次郎も嬉しいようだ。
顔を少し赤らめている文次郎の反応に満足しながら、口を開く

「だって、食事中くらいしか三人揃わねぇじゃんかよ」
「確かに」

そう言って、留三郎がスプーンやフォークをそれぞれに渡していく。
そして、ケラケラ笑って


「文次郎は素直じゃないからなぁ」
「お前に言われたかねぇよ!!」
「むっ、なんだと」
「まぁまぁ落ち着けって二人とも」

最近、留三郎は文次郎に対して軽く反抗期化してきた。文次郎と肩を並べていたいと言う表れなのだろうが、文次郎にはなかなか上手く伝わっていない。そんな二人は与四郎から見れば二人とも素直じゃない。だけどそれが心地良くて、愛しいと思える空間なのだ。


「ってか、文次郎は、やっかいじゃねぇかなぁ?」
「「は?」」
「ほら、超絶天然タラシだから」
「……あー……」
「はぁ?俺のどこがタラシなんだよ!!」
「タラシじゃないって」
「「天然」」


本人が気付いていたらそれは天然タラシとは言わないけれど、文次郎はあまりにも自覚が無い上に注意しても直す気が無い。本人としてもどこを直せば良いのか理解出来ていないのだ。

「文次郎は俺ら限定でタラシじゃないからヒヤヒヤするしなぁ」
「そうそう、あーコイツ言っちゃった。あ、この人絶対コイツに惚れた。とか分かるしな」
「俺らが恋人なのに、どんどんライバル増やすしなぁ?」
「無自覚も大概にしてくれ!!って感じだよなぁ?」


文次郎の方をチラチラ見ながら与四郎と留三郎は文次郎お前本当にいい加減にしろよ、と若干怒りながら、話を繰り広げる。

しかし、文次郎は二人が何でそんなに怒っているのか理解出来ていない。だが、何か誤解されているようなので、文次郎は急いで訂正に入った。

「待て待て!!お前らさっきから良く分からんが俺に惚れた人が多いだの話してるけどな……俺が、俺が好きなのは、お前たちだけだ。信じろよ?嘘じゃない。お前らが一番大好きだ」
「「…………!!?」」


その唐突な発言に、二人の顔はみるみるうちに赤くなっていく。

「おっ……お前なぁ!!だからそれが天然タラシって言うんだべ!!」
「真顔で一番大好きだなんて言う奴がいるかぁぁぁ!!」
「お前こそ、食事時に恥ずかしいこと言ってるじゃんかぁぁ!!」
「破壊力が高いんだよお前ぇぇ!!」


うわぁぁぁ!!と真っ赤になって頭を抱える二人に、やっぱり文次郎は訳がわからないと首を傾げた。

「あーもう、取り敢えず早く食事始めるぞ、冷めるだろうが」
「「う゛ぅぅ」」


文次郎がそう言うと、与四郎と留三郎は顔を赤らめたまま、何とかそれぞれの席に座った。

「そんじゃぁ、俺からのプレゼント」

与四郎と留三郎の目の前に差し出したのは、細長い四角い箱だった。

「……これ」
「開けて見ろ」
「「……?」」

箱を開けて出て来たのは、時計だった。
後ろを向けると、それぞれの名前のイニシャルと誕生日が刻んであった。

「長い年月を、お前らと一緒に刻んでいきたいからな、お揃いなんだけど、まぁ時計ぐらいなら良いだろ?」

そう言って、自分の腕を上げて、既に付けてある時計を見せる。
その発言にしてもタラシであるとは本人はまったく気付くこともなく。
二人の利き腕にそれぞれ時計を付けてやる。

「ん、似合ってるじゃねぇか」

満足そうに笑って、二人の頭をワシャワシャと撫で回す頃には、二人は先程よりさらに真っ赤になっていた。

「〜っ…あ〜文次郎ありがとな」

何とか恥ずかしさから抜け出した与四郎がそう言うと、留三郎も

「あっ…りがと」

と言った。愛されてるなんてもんじゃない。文次郎が自分たちとずっと一緒にいたいと思ってくれていることが、嬉しくてしょうがなくて、とにかくそれだけ言うのでいっぱいいっぱいだった。

「つっ、次はオラな」

与四郎が次に文次郎と留三郎に差し出したのは、文次郎と同じく細長い箱だった。

「オラはネックレス」

箱を開けると、シンプルなデザインのネックレスが出て来た。
文次郎と同じく、名前のイニシャルと、誕生日が刻んであり、真ん中にキラキラと輝く宝石が入っていた。
それにすかさず反応したのは文次郎だった。


「おっ前、これ俺のより高いだろ!!」
「だって、文次郎の家に住んでて、でもお前光熱費とか取らないくせに、ちゃんと給料くれんじゃん?だからお金貯まっちゃって、どうせだから奮発しようかなぁって」

雑誌に載せられてから大繁盛の店は、切り詰めなくても大丈夫なくらい貯まっているのだ。

「文次郎も留も首出して、こっちもお揃いだぁよ」

そう言って、文次郎と留三郎の首にネックレスを掛ける。

「宝石よりも、大事にしたいもんだから、首輪をかけとけと思って」
「「お前……」」

ケラケラ笑う与四郎に二人は呆れたが、その後に続く言葉は

「宝石みたいに高いもんなら無くさないようにしてくれて、いつでも、オラから貰ったんだぁって思いだすだろ?」
「それは…」
「うん」
「いつでも二人のことを思い出せるように、願掛けだぁよ」

ニコーッと笑った与四郎に、二人は黙ってしまった。そこからジワジワと頬が熱くなる。

「文次郎?こう言うのをタラシって言うんだべ?分かったかぁ?真っ赤ぁ可愛いなぁ」
「知らねぇよ!!」
「留も照れちゃって」
「うっ…うっさい!!」

ニヤニヤと笑う与四郎に、留三郎は赤くなった頬をパンパン叩きながら、最後のプレゼントを差し出した。
細長い二人の箱とは違い、四角形の箱だった。

「…俺は、リストラされた後だったし、二人みたいに高いの買えなかったけど……」

そこで、文次郎が箱を開ける。

「マグカップ?」

そこには、色違いのマグカップがあった。

「こっこれもお揃いだからな!!」

文次郎には緑
与四郎には赤
そして、留三郎のマグカップは青色だった。

「……夫婦茶碗みたいに、とは行かないけど…なっ長く使えるしな!!文次郎や与四郎が言ってたみたいなカッコいいことは言えないけど、俺だって!!ずっと一緒にいたいと思ってんだからな!!」

それだけ言うと、留三郎は見る見る間に照れてしまい。ふいっとそっぽを向いてしまった。
文次郎と与四郎はその反応を見て、嬉しそうに笑っていた。

「「ありがとうな」」

その声を聞いて、そっぽを向いていた留三郎がこちらを振り返る。
その顔は、照れながらも、喜んでくれたことに対して、嬉しくてしょうがない。と言った顔だった。

「あっ」

そして、何か思い出したような顔をして、

「もう一つプレゼントあったんだった。文次郎に与四郎、ちょっと顔寄せて」
「「?」」

二人に顔を寄せるように指示すると、自分も顔を寄せる。

チュッと軽い音が二つ

「めっ…メリークリスマス」

顔を離すと、ぽかんっと呆けた顔の二人

「………なっ」
「………はっ?」

留三郎はもう一度

「メリークリスマス!!」

照れ隠しに大声で言った。すると、二人がテーブルから立ち上がった。ガタンッと言う音がして

「わっちょっ!!」

ヒョイッと留三郎を抱き上げて抱き締めた。
聞こえてきた声は、二人分の嬉しそうな声

「「メリークリスマス!!」」
「………おう」



そのまま、食事をほったらかしてベットまで行ってしまいそうな二人を、留三郎が何とかテーブルに戻したり

朝起きたら腰が痛くて仕事どころでは無くなってたり


そんな日々も、何年後には良い思い出だったと三人で笑えるように

今は
愛しい人を抱き締める温もりと幸せを

留三郎も、文次郎も、与四郎もゆっくりと噛み締めた。


そんな訳で、クリスマス当日は、店は休みになってしまい。

留三郎と文次郎の体を気づかって、一番元気な与四郎が看板を裏返す。



CLOSEMerryXmas
(今日からお正月まで休みます)
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