10000フリー小説

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僕の記憶にさよならを

昔から、昔の記憶があった。昔の友とも出会った。アイツらは記憶など残っていなかった。



「文次郎?」
「……あぁ?」



過去の記憶があると言うのは厄介で、例えば、昔のライバルが女になってたり…………。


「文次郎…好きだよ」
「お前な……」


恋人になっていたり…食満留三郎は現在、食満留子と言う名になり、俺の恋人になっていた。

昔から好きだった。
男だった頃から変わらずに愛していた。
今でも変わらない、でも覚えていて欲しかった。

ワガママだけど俺は、今の留子も、昔の留三郎も、二人とも好きになったから、留子にも、昔の俺も今の俺も好きになって欲しかったんだ。


ギュッと首に抱きつかれた俺は、おそらく真っ赤になりならがら抱きつく留子にため息をつきながら、可愛くて


「今更だな」
「うっさい」
「お前、可愛すぎだろ、なんだよもう」
「うっさい!!」
「俺も好きだよ」


顔が見れないのを残念に思いながら、緩んだ笑顔は隠さない

言葉に流して伝えてみたら、ポカポカと頭を叩かれた。


「う〜!!」
「何だよ」


アハハと笑って、首に抱きつく小さな手を握る。
何も変わらない、陽向の匂い、笑顔、何でもない日常の、何でもない日の幸せな日々


でも忘れてはいけない。
昔の事、人を殺めた事、忘れてはいけないことだ。

神様のバカヤロー、何で俺だけ記憶を残した。


俺は幸せを噛みしめながら、昔の記憶に思いを寄せる




「おーい、そこのバカップル」
「いい加減にしろ〜」
「「伊作、小平太」」


伊作と小平太が微妙な顔をしながら俺達に声をかけた。

伊作の不運は相変わらず、小平太は相変わらず暴君っぷりを発揮する。



「帰るぞ」
「……………」

腕組みした仙蔵に、沈黙を守る長次



あぁ………本当に



「変わってねーな、お前らは」
「「「「「……………………??」」」」」


全員が俺の言葉に首を傾げ、俺を見た


「なんだその昔から知ってますな言い方は」
「……?知ってるよ、昔から」


仙蔵が怪訝に聞いてきたので、含みのある言い方で返してみた。


案の定アイツらは訳が分からないと首を傾げる


「ま、気にすんな」
「文次郎ってたまに変な事言うよね〜」
「そうか?」
「そうだよ!!」


伊作の熱弁を流して、教室の窓から流れる風に目を細める


忍術学園から流れる風もこんなふうだった。


目を細めると、思わず泣きそうになる。




5人と帰り道を歩きながら、くだらない世間話をして、ゲーセンに寄ってゲームして

じゃあ、と分かれた。

残ったのは留子と俺だけ、帰りの道をテクテクと歩いて

静かな沈黙が流れた。





「ねぇ、文次郎、前から聞きたかったんだけどさ」
「ん…?」





留子は真っ直ぐに俺を見る。



「文次郎はいつも何処見てるの?文次郎の心はどこにあるの………?」



泣きそうな顔で問いかけた。




俺の……心?


忘れないでと泣いている。忘れるなと叫んでいる。俺の世界は何処にある?俺の気持ちは……



「ト……メ…!?」



深く考えていたら、留子がポロポロと泣き出した。俺は堪らなくなって、留子を抱きしめる。


「置いてかないで…もんじろ…う」


かすれた弱い声は、俺の為の涙を流していた。



あぁ、愛しい、すごく



そうか……



『文次郎、バーカ』


俺は、『お前』の姿をまだ追ってるらしい。

心は過去におきっぱなし、諦めたようで、今に納得がいかず、幸せなようで、幸せではない。

でも、そんな俺を、君はいつも見ていてくれて、好きだと言ってくれる。


すごく、すごく、嬉しい


「ゴメンな……」



何で俺の記憶が残ってるのか、分かったよ

俺は、お前たちに聞きたいことと、言いたいことがあったんだ。



……なぁ、お前たちは幸せだったか?
あんな時代に生まれて、人も沢山殺して……


俺はさ、悲しいこともあったし、理不尽な事があって辛かったりしたけど


『幸せだったよ』




何だかんだ言いながら、あの時代が大好きだったんだ。


人を殺して、この手を汚したけれど……

でも、もういいかな?


俺はココも好きになることが出来るだろうと思うんだ



「留……ありがとな」



ワガママ言ってゴメン


君は昔の俺なんか見ないで、今の俺を、一途に好きでいてくれたんだ


腕の中の君が、もう昔の俺を思い出さないように、俺も、昔の君を忘れるから



「俺、お前が好きだ」



…だから、泣かせてゴメン、留三郎……愛してた


アリガトウ、サヨナラ



風が、フワリと吹いて、記憶を包んで消し去った










ハッと気付くと、恋人である留子を抱きしめていた自分がいた。


「文次郎〜苦しい…」


さっきまで、泣いてたクセに、今は顔を真っ赤にさせて俺の腕の中でジタバタと暴れている。


お前はずっと昔から強がりなんだから泣けるときぐらい泣いとけよ。


ん…?ずっと昔って何だっけ?


まぁ……いいか


「留子」
「なんっ…!!」



抱き寄せてキスをした。


とにかく今は



「愛してる」


この言葉を、浴びせるほど言ってやりたいと思う






終了




あとがき
10000hitありがとうございます!!

皆様に感謝の気持ちを込めてフリー小説です


過去の記憶を持っている文次郎は、過去の大切な記憶を、忘れずに生きてきました

でも、今を生きる覚悟を決めたので、過去の記憶が消えたのです

食満留三郎と言う人間は、文次郎にとって、現在に記憶が残ってしまうほど大切な人であると、空飼は考えています


過去と現在で悩み、恋で悩む文次郎を書けて満足でした。2人には幸せになって欲しいです
(^-^)


それではくだ猫10000hitありがとうございました!!



追記・2月9日、本文少し訂正


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