それは昔の話

それは昔々の話である。

忍術学園を無事卒業した文次郎とその他六年は、紆余曲折はあったものの
何の因果か、卒業後結局同じ城に仕えることになった。

彼らは六年のときよりも、より固い絆で結ばれ
人柄も良く戦にも強い良い主に恵まれ、忍者には有り得ないような、幸せな生活を送っていた。

ところがある日、南蛮から取り寄せた一つの箱を

『文次郎以外』の皆が開けてしまったのが悲劇の始まりだった。

彼らは翌日に控えた戦争で

仲間内で殺し合いを始めたのである。

状況を理解することが出来ず。ただ、死んでいった仲間の死体を抱えながら、文次郎が願ったのは…。

『コイツらが生き返るなら……俺は……何だってする…俺の命が必要ならいくらでも……だから、コイツらを…生き返えらして欲しい……』

文次郎のその声を聞いた。気まぐれだが善に好かれた鬼が一つの契約を持ちかけた。


『お前が死なずに永遠の命を生きること……すなわち、鬼になることを引き換えに、コイツらの命を助けてやろう』

鬼の名は、鬼神善鬼(きしんぜんき)すなわち、神に仕える、悪に染まった鬼…悪鬼(あっき)を倒す鬼。

彼の契約はさらに続いた

『鬼なり、悪鬼を倒すのを手伝うこと……そして……そうだなぁ…八百万…悪鬼を倒せ…そうしたら、人間の命の流れの枠に返してやろう…』

どうだ……?
問いかけてくる鬼に文次郎はただ笑った…。

『元に戻るなら…それでいい……』
『良いのか?鬼になれば、人の身ではなくなる。つまりお前の愛したものとはこの先会うことが出来なくなるうえに、お前の記憶は皆の中から消える。転生は確かに存在するが、全てが揃ってとは限らないんだぞ?』

文次郎のあまりにも早い解答に、善鬼は驚いた。というような声を出した後、もう一度文次郎に確認するように文次郎に問いかけた。

『忘れてくれるのか…』

しかし、文次郎は善鬼のその言葉に、安心したような声を出した。

『俺の存在はなかったことになるんだな?』
『…あぁ』
『なら安心だ、あいつらが覚えていたら、俺のこと一生かけてでも探そうとするだろうし、何より、アイツを…留三郎が俺がいないところで泣くのは、ごめんだからな…』

そう言ってほほ笑む文次郎に迷いは一切存在しなかった。
それで戻るのなら、自分は何を犠牲にしても構わない。
何故なら彼らは文次郎にとって

『大事な俺の、『家族』が戻ってくるなら、良いんだ…後悔なんてしねぇよ、この乱世、今までの幸せすら奇跡だった。いつ死んでもおかしくなかった。あの日々が…あいつらが…俺にとっては…』

『大切な存在だったんだよ』

そこに、自分がいなくなるのは少し寂しいけれど…。

善鬼は、そんな文次郎に手を伸ばして

『了解…した』

文次郎に自分の持っている剣を突き刺した。



こうして文次郎は…

鬼と禁断の約束をした。


それは昔の話

果たしてそれは
現在『誰にとっての過去』なのか

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