君はそうやってまた笑う




俺の幼なじみは、昔からとにかく人の涙や人の感情に敏い。
厳しいふりして、心配性でお人好しで、優しくて、やっかいな奴らに懐かれる。
ほら、お前がそうやって優しく笑うから、また好かれたじゃんか…。

泣く善法寺を見て、俺の隣にいた幼なじみは何を思ったかソイツを抱き締めた。


「……んで、一人は嫌だって…」
「あ?んなの見りゃ分かる」

いや……分かんねえよ!!
多分三人の意見がこの状況下に初めて一致した瞬間だ。
ってか善法寺いつまで文次郎の肩借りてんだ。さっさとどけ!

俺のイライラオーラとは逆に、留もビックリしている。
それと、文次郎は

「大体お前ムカつくんだよ、留を取り戻したいんだったら簡単に諦めてんじゃねぇよ、うじうじ自分は一人とか考えやがって」
「……ひっ」

黒いオーラを後ろに纏いながら、怒りモードだった。
それに怯える善法寺。あーなんつーか今回だけは同情する。

「つーかお前頑張ってんじゃねぇのかよ、お前留の幼なじみだろ?この年になるまで留と一緒にいたくて同じ会社行くとかすげぇよ、つーか何だよ、お前らすっげぇ仲良いじゃねぇか、正直羨ま……何でもない死ね!」
「何で!!?」


理不尽な文次郎の言い分に善法寺が突っ込む。
文次郎は、息継ぎ無しに喋っていたのか、最後の死ねでゼーハーと息継ぎしている。

「……っだからお前はこれからも留を狙うチャンスがあるし!留と友情を深めることも出来るわけだ!!オッケー!?」
「おっ…オッケー……」


あぁ善法寺が完璧に迫力負けしてるし……


「俺は、簡単に諦めるのが大嫌いなんだよ…」

文次郎は怒りのオーラを弱め、善法寺の頭をガシガシと撫で回した。
あ、善法寺の目つきが変わった。

「良いの?友達でいても、そばにいても……」
「留三郎は嫌がってねぇからな」


だろ?と笑う文次郎に、文次郎が優しく笑い。

「……そ…だね」


善法寺は、その腕の中でまた泣いた。

…今回、だけだからな、その腕の中に抱きつくのは、昔から、俺と、俺の心を許した相手じゃないと許さない。
今回だけは…多目に見てやるよ。

俺は、客足が増えてきた店に、また戻るために歩き出した。




〜数日後〜

「とっめさーん!!」
「…げっ…」
「伊作!!」

銀の扉を勢いよく開けて入ってきたのは、つい先日まで留三郎依存症……あー、これじゃぁ俺も同じだな…ま、いいや。
が、入ってきた。

あの襲撃事件の後、善法寺は諦めたくない。との言葉通り、週に三回はここにやってくる。

「げっって何さ錫高野さん」
「……別に…何でも無いだぁよ」

善法寺がジトーと見てきて、思わずギクッとなる。

「伊作?」
「文次郎!!」

善法寺が入ってきた来たのを確認した文次郎が善法寺に声を……ん?

「「お前らいつから名前で呼び合うようになったんだよ!!」」

留も同じことを考えたのか言葉が被った。
すると、善法寺が見せつけるように俺達の前で文次郎の腕に抱き付いた。

待て待て待て…。

文次郎がポカンッとしていると、善法寺が、今後最大級に有り得ない発言をした。


「文次郎が好きになったみたい。」
「「はぁぁぁぁ!!?」」
「待てお前!留はどうなるんだべ!?」
「勿論留さんも好きだけど、でも、それは友愛の類だし…」

お前の友愛の度合いってどんだけだよ…。
呆れたり混乱したりの俺と留に、伊作がニヤッと笑った。


「それに、留さんと錫高野さんの焦った顔って面白いんだよねー」

ふふっと笑う善法寺に、ムカついてきた俺と留。

って言うか、結局今回の件ですべてにおいて善法寺の敵になってるのって俺だけじゃん。

「大丈夫、蹴落とすのは与四郎さんだけだから」
「やっぱりか!!サラッとオラは敵宣言か!!」
「俺は良いのか?」
「留ぇ!!?」


ギャイギャイ騒ぐ俺達に、文次郎がやってきた。


「伊作に俺が落とせるかなぁ…?」
「文次郎まで!!」

なんだか半泣きになってきた俺を、文次郎が突然引き寄せた。

チュッ

「………」

と言う軽い音が聞こえ、俺は停止、留三郎はあぁぁ!!と叫び、善法寺は腹を抱えて笑い出し。文次郎は…

「お前しかいねぇよ」


そう言って笑ってみせた。
君がそんな風に笑うから

俺の顔は赤くなって

昔からの恋は、密かに前進したような気がした。


―――――――――

伊作が与四郎の名前を下で呼び出したことにいち早く反応した文次郎が、密かな独占欲を面に出したことに、与四郎は気付かない。

なんにせよ、三人組を引っ掻き回すと言うことに楽しみを見つけ出したような伊作に

文次郎が苦い顔をしたのは、誰も気づいていなかった。


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