僕が幸せにしてあげたかった




その雑誌を見て、伊作は泣きそうに顔を歪ませた。留三郎は、ズルい。

伊作を庇って、上手く行っていた仕事を辞めたのに、責めもしないで、勝手に消えて。

一番近くにいるのは自分だったのに、確かに助けられたのは自分だが、頼ってくれれば、留三郎の新しい仕事が見つかるまで、自分の家に泊まってもらうつもりでもいた。

だけど、留三郎は優しい。きっと、自分に迷惑をかけたくなくて……。
だけど、伊作は辛かった。

留三郎が伊作に何も言わなかった。

辛い。

雑誌で見た留三郎は、遠い世界に行ってしまったように見えて、伊作は雑誌を握り締めた。


伊・「……幸せなのか…な?」

そうであれば良い。留三郎は幸せそうだ。

ハタリと涙が雑誌に零れた。

伊・「でもね、留三郎…連絡ぐらい欲しいよ?…僕は君に忘れられてる…?」

分かっている。彼が自分を忘れる訳はなく、連絡出来ないのにも事情があることくらい。

分かっている。

分かっているんだ。

伊・「だけどね、悔しい…」

ポタポタと雑誌に涙の染みを作りながら、伊作は留三郎の傍らにいる。二人の見知らぬ男を見つめた。

伊・「僕が、幸せにしてあげたかったんですよ…?」





だから、これは伊作なりの反抗、留三郎の優しさを利用する。伊作の悪あがき。

どんなにせがんでも、縋っても、伊作の元に、留三郎は戻らない。今日、銀の料理屋に来て、伊作は確信してしまった。

―だって…―

『大丈夫ですか!?』『何も知らないのに、酷いこと言った』

……。

―ココにいる君の大切になった人達は、『優しい』―

伊作が優しくない訳ではないが、文次郎や与四郎の行動や言動は、伊作に留三郎を思い出させた。三人は似ている。それに、自分とは違う。留三郎に守ってもらうのではなくて、留三郎を守れる人達だと伊作は思った。

あぁ、なんて勝ち目の無い勝負に来てしまった?

伊作はそれでも、最後の悪あがきをする。


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