15年タイムトラベラー(文食満)
2010/12/12 22:18

※模造設定多 未来設定



何だってこんなことになったのか、と『針(はり)』は溜め息を吐いた。広がるのは、見慣れた忍術学園の校庭。そこに一人、自分が学生時代、良くケンカを繰り返した好敵手にソックリな人物が倒れている。

「…はぁ〜…面倒なことになったなぁ…」

『針』こと、潮江文次郎、三十歳は、短くなった自分の髪をガリガリと掻きながら、左目の無い、その右目を細め、また溜め息を吐いた。


『針』と言う名は、現在の文次郎が二十歳の時、敵方の忍長と戦い、左目を負傷、髪をザンバラにしてしまったことから始まる。片目が使えなくなった文次郎は、勤めていた城を追い出される形で解雇され、路頭に迷っていた所を忍術学園に拾われた。目を失ってもその実力は健在であり、直ぐに実技教師として採用された。

しかし、片目の効かなくなった文次郎には、前のように自分の特物である袋槍を、再び自由に扱うことは叶わなくなってしまった。そこで、文次郎の旧友であり、同じく忍術学園の医師として働いている伊作からのアドバイスで、文次郎が始めたのが、『暗器』である。腕の強い物が誰しもが、刀や槍などの多きな武具を持つわけでは無い。接近戦にしろ、長距離戦にしろ、頭脳を使い、かつ、どちらが早く敵を殺せるかが忍の世界では重要なのだ。

そして文次郎が最初に選んだのは、一本の、傷口を縫うために使われた針だった。ここに毒薬を塗り、完璧に扱えるようになれば、確実に自分の戦力になる。
そう考えた文次郎は、日々針を使い、いかに獲物を仕留めるかを試行錯誤し、この10年間見事に針を使いこなせるようなった。

『その手つき鮮やかに、武具を持たぬその男に気を抜く無かれ、彼(か)の者の腕(かいな)そこにあるのは、針地獄』

この噂が噂を呼び、いつしか文次郎は、本来の苗字では無く、『針文次郎』と呼ばれることが多くなったのである。

そんな遥か昔のことに思いを馳せながら、針は庭に転がる緑に近づいた。

「…」

どう見ても、留三郎である。食満留三郎。針の永遠の好敵手の若き頃の姿がそこにはあった。

「さて、どうするか…」

そこで、針は、また昔を思い出す。そう言えば、六年生の実習で、留三郎が行方不明になってしまったことがあった。後々見つかるのだが、本人はそれまでの記憶を無くしており、自分はただ彼が無事に戻ってきたことの方が大事で、留三郎の失われた記憶など気にもしなかったのだが…。

「まさか」

まさか、『時空を移動してきた』?そんな非現実的なことが、本当にこの世の中には存在するのだろうか…。とにかく、何にせよ、目の前に倒れている留三郎にソックリなこの青年を、針は起こすことにした。

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目を覚ますと、そこには髭面のオッサンがいた。どこか見覚えのある顔ではあるが、はて、誰だったか、しかも髪はザンバラだ。仏教の住職様か?にしては人相が悪すぎる。残された右目の瞳の奥は、光の反射で、少し紫にも見えた。

「…い、おい!!」
「…んっ…」
「やーっと起きたか」

男はニッと笑って起き上がった俺の頭に手を乗せて、ポンポンと軽く叩いた。

「………へ?」

思わず呆けた声を出すと、男は俺の頭をワシャワシャと撫で回し、自己紹介をした。

「はじめまして、俺の名前は針文次郎。忍術学園一年は組担任、実技担当だ。」
「は?」

何言ってんだこのオッサン。一年は組の実技担当は山田先生だろうが、しかも文次郎だと?いや、名字違うし…

「ちなみに言うと、針は渾名であって、本来は潮江文次郎と言う…」
「は…」

目を見開く俺に、オッサンは死刑宣告を楽しげに告げる最悪な悪者のようにニヤリと笑う。

「ようこそ、15年後の未来へ」


15年タイムトラベラー


「まぁ戻れるまでは世話見てやるよ」
「ちょちょ、訳分かんないんだけど!!」
「あ?んなもん後々分かっていきゃ良いじゃねーかめんどくせぇ」
「………」

頭を掻いて顔をしかめたオッサンは、本当に我が天敵かと疑いたくなるほど、適当人間らしかった…が。

『人生は楽しまなきゃ損だぞ』

そうやって笑う顔は、確かに潮江文次郎のものだった。


end


〜〜〜〜〜〜〜
戻らないまま終わってしまいましたが、一度はやりたかった針文次郎ネタでございました。

食満君にはこれからセクハラに悩まされて貰おうかと思いますww



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