明かされた正体
アイリスフィール・フォン・アインツベルンはそのルビーのような真紅の瞳を零れ落ちそうなほど開いた。 夫である衛宮切嗣の連れてきた少女、#天神#龍華の容姿が自分と似通っていたこともある。 だがそれ以上に、彼女の体に眠る魔力量の多さに驚いたのだ。 それは、魔術に特化したホムンクルスであるアイリスフィールだから分かったことで、夫は気付いていないことを彼女は悟った。 妻の様子がおかしいことに気付いた切嗣は心配そうに顔を覗き込み、彼女に問うた。
「どうかしたのかい、アイリ?」 「龍華さんの、魔力量が多いの。多すぎるの。普通じゃ、考えられない…!」 『……あぁ、切嗣のお嫁さんは魔術に秀でてるんだっけ。なら分かるか』
アイリスフィールが見た龍華の魔力量は人ではあり得ないほどのものだった。 ホムンクルスでも彼女ほど持っていると肉体が滅びるだろう、とアイリスフィールは確信している。 それが何を意味するのかが分からないほど彼女は頭の悪い人間ではなく、むしろ逆だった。 それ故に、龍華の正体を問わずにはいられなかった。
「貴女は……人間じゃ、ないわね」 『うん。人ならざるものだよ。だからといって英霊じゃないし、使い魔でもない。人は私を、神って呼ぶかな』
張り詰めた空気を纏うアイリスフィールとは対照的に柔らかい空気を纏って頬を緩ませる龍華は、ゆっくりと自分と似た女性に向かって足を進める。 ふにゃふにゃした緩みきった頬を隠そうともしない龍華に切嗣はため息を吐いてアイリスフィールの耳元で忠告をした。 それは、ここに辿り着く前に行われた会話で龍華がこれからどんな行動をするかを理解していたからこその忠告。
「アイリ、身構えた方がいい。後ろに倒れてしまうよ」 『もう遅い!改めまして初めまして!#天神#龍華です!よろしくアイリスフィール・フォン・アインツベルンー!』
突進のような勢いで、龍華はあろうことかアイリスフィールに飛びついた。 力の計算はされていたのかアイリスフィールが倒れることはなかったが、やはり驚きは隠せず小さな悲鳴をあげて、自分に抱きつく存在を見たり横で苦笑する夫を見たりと大忙しだった。
『美人さんだねー。聖杯戦争中は貴女の警護をすることになってるから、四六時中一緒だよ』 「そ、そう…。よろしくお願いします、龍華さん」 『龍華で良いよ』
十分に堪能したのか頷きつつアイリスフィールから離れて彼女の伴侶である切嗣に軽く謝りつつも始終笑みを変えることのない龍華。 これが、後の衛宮切嗣率いるセイバー陣営との出会いであり、物語の始まりである。
prev / next
|