全ての始まり



それは、雪が降る寒い冬の時期のことだった。
アインツベルンの城近くで、衛宮切嗣はそれを見た。
この寒い季節に似合わぬ露出が多い薄手の服を纏った少女。
彼女は雪のような白銀の髪、鮮血のような真っ赤な瞳を持つ神秘的な少女であった。
偶然か必然か分からないが、それは妻であるアイリスフィール・フォン・アインツベルンと同じもので。
だからだろうか、妻と似た風貌の少女に彼が話し掛けたのは。

「そこの君」

切嗣は始めは彼女をアインツベルンのホムンクルスだと思った。
しかしその考えは少女の顔を見て、声を聞いてすぐさま撤回される。
人のものとは思えないような整った顔立ちに、少女の口から漏れた驚きの混じった小さな鈴の鳴る様な清廉な声。
切嗣は一瞬、息も忘れてその少女に見蕩れてしまった。

『あぁ、御免なさい。ここ私有地だっけ。勝手に入ったこと、謝るよ』
「いや、僕の物じゃないし咎めるつもりはないよ」

穏やかな口調でありながら切嗣は警戒して懐の銃に手を掛けていた。
アインツベルンの私有地には結界が張られており、部外者が入るとすぐに感知できるよう仕掛けられている。
それをかわしてここに入っているのだから、恐らく魔術師なのだろう。

「何の用があって、ここにいるのかな?」
『そう警戒しないでよ。私は、ただ何となくここにいるだけ。空気と思ってくれてもいいかな?』

切嗣の警戒を分かっていながらも花が綻ぶ様な笑みを浮かべて穏やかに返す少女はゆっくりと切嗣の方へと歩いて行く。
切嗣は下がろうとするが、体は言うことを聞かずまるで金縛りにあったかのように動かない。
気付いた頃には、少女は切嗣のすぐ目の前まで来ていた。

『お兄さん、良い目をしてるね。……うん、お兄さんの力になってあげる』
「一体、何を…」
『お兄さんの味方になってあげるって言ってるんだよ。でも、好きにさせてもらうけどね』

そう言って少女は手を差し出した。
彼女の笑顔は先程とは変わらぬままの筈なのに、どこか邪気を孕んだような笑みに切嗣は身震いする。
けれど何かを感じずにはいられず、その手を取った。
この出会いは後に彼を運命を変えることとなるが、彼はまだそれを知らない。
知るのはただ一人、手を取って嬉しそうに笑う少女のみである。



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