暴君王



昨日の深夜、切嗣から龍華に連絡があった。
自分はアイリスフィールやセイバー逹とは別で冬木に来る、とのことだ。
ちなみにその時間寝ていた龍華が無理矢理起こされ、枕と目覚まし時計を1つずつ駄目にしたことは割愛しておく。

『一昨日ランサー、昨日ライダーとくれば、今日は誰になるんだろうか…?』

何かに出会えるかもしれない、と深夜とは全く違う上機嫌さで外に出た龍華は、輝く何かを見つけた。
何かの正体は、百メートル先のデパート前にて立っている金髪が目立つ男。
それを視認した龍華は思いきり舌打ちをして、さながら脱兎のごとく男とは逆方向に走り出した。

『何で、何でよりによってアイツが…!』

走りながら憎らしげに彼女は呟く。
スピードを下げることなく、逆に上げながら酷く焦るように、全速力で彼女は走り続けた。
走り出す際に宙に待った、たっぷりとした自慢の銀髪を見られたとも知らずに。

『うっわー、最悪。誰だアイツをサーヴァントとして呼び出した奴は。絶対アイツ従わないし、従わす方だからマスターは苦労してるに違いない』

一キロ程走って後ろを振り向き、大きく息を吸った。
そして溜め込んだ分だけの息を吐き顔を上げると、龍華が会いたくなかった男の姿。
彼女は驚いて溢れ落ちそうなくらい目を大きく見開いた。
頭の中は何故、どうしてと疑問ばかりが飛び交うが、今すべきことくらいは理解できている。
すべきこと。
それは、逃走だ。

『制限解除(リミッターオフ)!』
「天の鎖(エルキドゥ)!」

2人が言葉を放ったのは同時だったが、龍華は制限解除のため動作が一瞬遅れた。
その一瞬が、命取りになる。

「……久しいなぁ?我が敵よ」
『最悪だ…』

神性スキルDとは言え、神性を持っていることには変わりない。
よって神である龍華の身体は鎖に絡み取られ、宙に吊るされてしまった。
苦々しげに顔を歪める彼女に金髪の男はゆっくりと近付き、前髪を掴んで無理矢理顔を上げさせる。

「相変わらず見目は変わらぬか」
『これでも消滅することのない魂を持ってるから、当然でしょ』
「口も減らぬようだ」

男は背後から武器を出し、躊躇わず龍華の太股にそれを突き刺した。
白い足が傷口から溢れる大量の赤い血に覆われる。
しかし彼女の顔が傷みで歪むことはなかった。
何故なら、彼女の今の状態は"制限解除"。
制限とは、人の器には収まり難い膨大な魂を収めるための能力低下機能のこと。
制限によって英霊クラスだったのが、今は制限解除状態。
つまり、現時点での龍華の能力は最高レベル。
神の能力そのままの彼女が、痛みを無視できない筈がない。

『ギルガメッシュ、離してと言えばどうする?』
「うつけめが。漸く捕らえた我が朋友の仇。誰が逃すものか」
『……そう』

酷く残念そうに目を閉じた龍華は、唯一自由に動く口を動かした。
それは反撃の狼煙であった。



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