女性に囲まれた英霊



その日、龍華は買い物に出ていた。
セイバー達が来るまでまだ日にちがあるので、それまで探検しつつ冒険しつつ遊ぼうという算段だ。

『今日の夕食は唐揚げだな、うん』

スーパーの品物の値段を見定めつつ、龍華は今日の献立を決める。
その時、後ろを人ならざる者の気配を感じた。

「お兄さーん、遊びましょうよ!」
「私が何でも奢ってあげちゃうから!」
「いや、あの俺は…」

振り返って彼女は何だこれは、と真っ先に思った。
龍華の目の前には年若い女性から年配の女性にまで囲まれる美丈夫の姿。
その美丈夫からは人外の気配が出ていた。
龍華がまず一瞬にして理解したのは、サーヴァントであろう男は幸運値が低いこと。
なんとその男の幸運はE。
最低を通り越し、最悪にまでたどり着いたランクである。

『どうしよう…』

龍華の口から思わずそんな言葉が出た。
目の前には困っている人。
ただしその人物は敵。
龍華は1分だけ思考をして、どうするかを決めた。

『あ、いたいた。もう、そんな所で遊んでないで早く会計済ませて帰ろう』
「は?いや、俺は…」
『遅くなると怒られるよ』

この一言で男はすぐに口を閉じ、素直に龍華に着いてきた。
会計を済ませて(一括で龍華が払った)外に出ると、男は口を開いた。

「すまない、困っていたもので…。礼を言う」
『別に。困ったときはお互い様って言うし。それにしてもそんなんじゃ英霊の名が泣くよ?』

一瞬で空気が変わった。
男は目が鋭くさせ、龍華から距離を取り始める。
それを見ても彼女は飄々として袋からあんまんを取り出した。
ちなみに何故肉まんでないのかというと、龍華は餡が好きだからである。

『まあそんな警戒しないでよ。英霊なら分かるでしょ?私がどういう存在か』
「だからこそ、だ。何故神が現世にいる」
『まあ単に暇だからなんだけど、今回の参加者に知り合いがいてね』

そう言って幼子のようにあんまんにかぶりつく神とは思えないような神に毒気を抜かれ、男は警戒を解いた。
そして幸せそうに食べる龍華に苦笑する。

「差し詰め旅行のようなものか?」
『まあそんなとこ。一応聖杯戦争に関与してるけど、聖杯なんて要らないしちょっとお手伝いと護衛をしてるだけかな』
「成る程」
『ところでお兄さん、お名前は?』
「聞かなくても分かるだろう?貴殿ほどの力があれば」
『直接聞きたい。名前は大事だからね』

龍華の返答に確かに、と頷き薄く笑って男は言葉を紡ぐ。

「俺の名はディルムッド・オディナ。ランサーのクラスを賜ったサーヴァントだ」
『私は天神龍華。この世の半分を統べさせてもらってる、ただの神だよ』

そして龍華もまた同じように、薄く笑って名を告げるのであった。



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