家族



セイバーことアルトリア=ペンドラゴンが召喚された翌日、彼女のマスターである衛宮切嗣に龍華は呼び出された。
セイバーに話しかけようと浮かれていた龍華は計画を壊され不機嫌そうにしながらも律儀に呼びかけに応じる。
指定された部屋に着くとその場には既に彼女を呼び出した相手がいた。

「急ですまないが、先に冬木に向かって欲しいんだ」
『え、何それ苛め?』
「飛行機は用意してある」

そろそろ扱い方が分かってきた切嗣は軽く龍華をあしらって書類とチケットを渡した。
『切嗣酷い…』と泣き言を言いつつしっかりそれを受け取り、彼女は早速中を確認。
一度見て、首を傾げ、目を逸らす。
そしてまた、確認。
何度龍華が確認しても、中身は空だった。

『切嗣、からかったでしょ?』
「まあね。けれど行ってもらうのは本当だ。先に行って視察をしてきてくれ。視察と言っても地理を把握するだけでいい」
『ちぇー。了解ですよー』

頬を子供のように膨らませながら龍華は部屋を退室した。
別れの挨拶と、旅の支度をする為に。


「ハンカチ持った?ティッシュは忘れてない?」
『大丈夫だって』
「迷子になったら駄目なんだからね!」
『はいはい』
「水と食料は持ちましたか?」
『いや水はともかく食料は要らないから』
「チケットは持ったのかい?」
『あるってば!』

私は子供じゃないんだから、とため息を吐きながらも笑顔な龍華は少し寂しそうに、けれどそんなものはまったく感じさせないような声色で大きく言った。

『行ってきます!』

それに彼らは家族のような暖かな目で、当然のごとく答える。

「行ってらっしゃい!」


飛行機は無事冬木の地に到着し、アインツベルン城に居たときとは全く違う軽装に身を包んだ龍華は指定された住居に向かった。
切嗣が用意したのはごく普通のマンションで、魔術師の住む場所とはとても思えないもの。
けれど龍華にとって住むには不便がなかったし、そもそも彼女は魔術師ではない。
よって何も問題がなく、龍華の冬木での生活はスタートした。



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