英霊召喚
魔方陣がまもなく完成する頃、龍華とアイリスフィールは切嗣に近寄った。 アイリスフィールは魔方陣を見て不思議そうな顔をしており、逆に龍華は未だ悪戯前の子供のように笑っている。 龍華はこれから召喚される英霊を知っていた。 聖遺物により何が呼び出されるのかを勿論切嗣もアイリスフィールも知っている。 しかし、彼女が知っているのはそういうことではないのだ。 神たる龍華が知っているのは、その人物の過去。 生まれから、死に至るまでの全て。 故に銀の少女は、無邪気さを孕んだ笑みで笑っていた。
「英霊を召喚するというのに、こんな単純な儀式で構わないの?」 「拍子抜けかもしれないけどね」
切嗣がアイリスフィールに説明している間、龍華は微笑ましく友人夫婦を見ていた。 彼女が二人の間に入れないだとか、そういうことではない。 決して、ない。 そうこうしている間に召喚の準備は万全になったらしく、龍華が気付いた頃には聖遺物も既に祭壇に置かれていた。 そして、切嗣は召喚のための呪文を唱え始めた。 彼自身は知らなかったが、他の場所でも召喚は行われていた。 まったくの同時刻で、同じ呪文を唱えながら。
『いよいよ召喚されるのか。セイバーが。アーサー・ペンドラゴンが。…いや、アルトリア・ペンドラゴンが、と言った方が正しいかな』
誰にも聞かれぬよう小さく呟き、龍華は三日月型に唇を歪めて詠唱が終わりつつある切嗣の後姿を見る。 その直後詠唱が終わり、魔方陣は強い光を発した。 光が収まる頃、魔方陣の中心に人が立っているのが見え、その姿に切嗣は思わず言葉を発した。
「こいつは…!」 「問おう。貴方が私のマスターか?」
その姿は、金髪碧眼の美少女。 セイバーとして召喚されたアーサー王は、女性であった。
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