友の頼み事
イリヤスフィールが遊び疲れて寝付いた頃、龍華の部屋の扉が控えめにノックされた。 こんなノックをする人物はこの屋敷に1人しかおらず、また龍華は気配を察知してそれが誰なのかが分かっていた。 だから躊躇いなく呼ぶ。 自分のベッドですやすや眠るイリヤスフィールの母である、アイリスフィールの名を。
「ごめんなさい。イリヤの面倒見てもらっちゃって…」
申し訳なさそうに扉から顔を出すアイリに緩く首を振ることで彼女の言葉を否定する龍華。 それは紛れもない本心であったし、己が寝台で眠る存在との遊びは自分にとっても楽しかったと龍華は言った。 子供らしい彼女ならではの感想と言えよう。
「それでも悪いわよ」 『良いの。それよりイリヤを連れて行くんでしょ?付き合うよ』
アイリスフィールに気負わせないよう気を遣い、龍華は敢えてイリヤを運ぶのを手伝わなかった。 手伝えば彼女はさらにすまなさそうに謝ってくると分かっていたからだ。 アイリスフィールはイリヤを抱き上げ、龍華は扉を開け両手が使えない友人の手助けをする。 そうして難なくアイリスフィールの寝室に辿り着き、娘をベッドに降ろして彼女の母は手近にあった椅子に腰掛けた。 龍華に本題を切り出すために。
「……あの聖遺物が見つかったわ。アーサー王を呼び出すための、あれが」 『やっぱりね。二人がアハト翁に呼ばれたってイリヤに聞いたから、そうだと思ってた』 「それでね、切祠が貴女に魔方陣の用意を手伝って欲しいそうなの。…頼める?」
一児の母とは思えない程子供らしく不安そうな顔を見せるアイリスフィールに、龍華は安心させるよう笑みを浮かべて頷いた。 するとアイリスフィールは明るく笑い、「早速行きましょう」と龍華の手を取って歩き始める。 龍華は友の無邪気な姿に苦笑しつつ、されるがままアイリスフィールについて行った。
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