これでも神様
龍華は戦士としても魔術師としても優秀で、何をさせても一流以上の腕前だ。 故にそんな彼女が暇を持て余してただ自堕落な生活を過ごす訳がなく、ちゃんと彼女なりに手は打っていた。 彼女は敵の情報を更に探ろうとしていたのだ。 自己流で創った魔術師のものとは違う使い魔を放ち、脳内に送られてくる情報を整理しながら書面に写していく作業を淡々とこなす。 それを敵の数だけではなく、敵周辺の人間までしているのだからそれは大変を通り越した作業だ。 神である龍華だからこそ出来る作業と言えよう。
『よし、全員分完了!あとは英霊を調べれて追加される敵の情報を更新していくだけだね』
龍華は、己が友人の衛宮切嗣は間違いなくサーヴァント中で最も優秀なセイバーに当たるだろうと確信していた。 何故なら、彼の伴侶であるアイリスフィールの祖父であるアハト翁の探す聖遺物で呼び出されるであろう人物はセイバー以外で呼び出されることがないと知っているからだ。 アハト翁が捜し求めているのはかのアーサー王の聖遺物、全て遠き理想郷(アヴァロン)。 アーサー王がどんな人物でどんな武器を使うかを龍華は己の能力で把握していた。 勿論、彼女達に面識はないが。
『そろそろアハト翁も見つけるだろうし、敵は使い魔が24時間調べてるからなあ…』 「龍華ー!」
扉が開く大きな音と共に考え事をしていた龍華の腹に何かが突っ込んできた。 彼女はそれを難なく受け止め、腕の中にすっぽり嵌った白い存在を見て破顔する。 その存在は龍華とよく似た銀色の髪に赤い瞳を持つ友人の娘、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンだった。
「一緒に遊ぼう!」 『切嗣と遊ぶのはやめたの?』 「切嗣、お爺様に呼ばれてどっか行っちゃった」 『アイリも?』 「うん」
アハト翁に呼ばれ、二人で行ったということは恐らく見つかったのだろう。 そう龍華は思い、表情は笑顔のままイリヤを抱き上げた。 見た目よりよっぽど軽いイリヤはすぐに宙へと上がり、嬉しそうに笑う。
『じゃあイリヤ、帰ってくるまで私とかくれんぼしようか』 「かくれんぼ!するするー!龍華が鬼ね!」
幼子特有の無邪気な笑顔を見せて腕から下りたイリヤは部屋を出て走っていった。 その愛らしい様子にまた破顔して、龍華は数を数え始める。
穏やかな時間がいくら流れようとも、聖杯は待ってはくれない。 聖杯戦争は、すぐ目の前まで迫っていた。
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