大切な存在



魔力の使い過ぎで倒れた龍華は寝室のベッドで固く目を閉じていた。
それを彼女からの贈り物を握って娘を抱きながら心配そうに見つめるアイリスフィール。
そして隣に付き添って妻と同じ目で龍華を見る切嗣。
龍華が意識を失ってから、もう一週間という長い時間が経とうとしていた。

「まだ、目を覚まさないわね…」
「無尽蔵にあった魔力を殆ど使い切った、と言っていたからね。魔術師は魔力を使い過ぎるとある程度回復するまで強制的に眠りにつく。だから、無尽蔵の器にある程度溜まるには時間が掛かるんだろう」
「でも、もう一週間よ…!」

悲しみに染まった暗い顔で涙を溜めながら叫ぶアイリに寄り添って慰める切嗣も、アイリと同等、いや同等以上に悲しみを抱いている。
約1年という期間で龍華は二人の心の深いところにいるようになったのだ。

「大丈夫さ。命に別状はないことは分かってるんだからね」
「切嗣……。えぇ、そうね。龍華はきっと、起きてくれるわよね」

自分に言い聞かせるように言うアイリに切嗣は頷き、未だ目を覚まさない龍華の髪を梳く。
その瞬間、龍華の手が微かにだが、ピクリと動く。
そして固く閉ざしていた瞼をゆっくりと開いて、目を見開いている二人の姿を己の赤い瞳に映し出した。

『切嗣…アイリ…心配、させちゃったね』
「いいのよ…。貴女が起きてくれただけで、私はとても嬉しいわ…」

澄んだ赤い瞳に涙を浮かばせ、手で顔を覆うアイリは何度も首を振って答えた。
切嗣も泣き笑いのような表情を浮かべており、龍華は苦笑して感謝の意を伝える。
『ごめんね、ありがとう』と、赤から一筋の雫を零して。



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