冬の愛し子誕生



その日は第四次聖杯戦争から8年も前のことで、龍華と切嗣が出会って約1年の時が経とうとしていた日のことだった。
龍華の友人であり、切嗣の妻であるアイリスフィールが子供を出産したのだ。
赤子の名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
龍華はメイドから、アイリスフィールによく似た子だと聞かされた。
生まれたことを知った龍華は夫婦で話があるだろうからと気を利かせ、ゆっくりと歩いて時間を稼ぎながらアイリスフィールの寝室を目指した。

『アーイリ!出産おめでとう』
「ふふ、ありがとう龍華」
『イリヤスフィールは?』
「お父さんの腕の中で眠ってるわ」

アイリスフィールが指差した先には、穏やかな笑顔で大人しく眠る赤子と同じく穏やかな笑顔で自分の子を見る父親の姿。
龍華はその心安らぐ光景を見て顔を綻ばせ、イリヤスフィールを起こさないようゆっくりと二人に近付いた。

『可愛いー。流石美男美女の子だー。将来が楽しみだね』
「アイリそっくりだろう?」
『いや目元は切嗣似だよ』

図って言った訳ではないが、龍華が言った内容はアイリスフィールが言った内容と同じものだった。
故にそれを知っていた切嗣とアイリスフィールは同時に笑った。

『え、何?』
「いや、君の言ったことがアイリと同じでね…」
「やっぱり目元は切嗣似なのよ。龍華も言ってるんだから間違いないわ」

見るからにアイリスフィールは和やかなオーラのようなものが出ており、その感情が簡単に伺える。
やはり母親として子供が夫にも似ていることが嬉しいのだろう、彼女は幸せそうに微笑んでいた。

『近々何か贈るよ。切嗣にもアイリにも、この可愛いお姫様にもね』

龍華はイリヤスフィールの頬を撫でてじっくりと観察した。
髪色は銀で、恐らく伏せられた瞼の下も母と同じ赤なのだろう。
きっとアイリスフィールに似た可愛い少女になるだろうと龍華は心の中で思い、将来を想像して頬を緩ませた。
娘を変な笑いで見る友人の姿を訝しげに見ながらも、切嗣は何もしないだろうと龍華を信じ、そのままにさせておいた。

『とびっきり良いのを用意してあげるから、楽しみにしててね』
「貴女がそこまで言うのだから、素晴らしいものなのでしょうね」
『うん。守護用のアクセサリーにするつもりなんだ』
「それは楽しみだ」

三人は破顔してのどかな時を過ごす。
しかし、この時間は長くは続かないことを三人は知っていた。
特に、人ならざるものである龍華は先が見えるが故に今を大事にして穏やかに過ごす。
未来を杞憂し心の中でため息を吐きながらも、それを隠して龍華は笑って仲睦まじい夫婦を見た。



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