「幸村の好きなタイプってどんな人なん?」
 ギシリ、とベッドのスプリングをきしませて忍足が寝ている横に座る。忍足はこちらを困ったように見て、視線を枕に戻した。
「…なんでそんなこと言わなきゃいけないのかな」
「別に強制するつもりはない、けど。俺のこと好きやないやろ」 
 少し自虐的に笑い、ぽすりと枕に顔を埋めた。忍足は自分のことを嫌っていて、だからこそ忍足は忍足でいられる。
「別に好きじゃないとは言ってない。けど、嫌いなタイプかな」
「…なんやそれ」
「あくまでタイプなだけであって好きなのがそのタイプとは限らないじゃないか」
「…?」
 こちらを見た忍足は首を傾げて訳がわからないという顔をしている。その行動をしたのが可愛い女子だったら可愛かったところだが、忍足のようなモサメガネがやっても何の価値もない。そんな忍足から目を逸らして窓に目を向けた。
「まあ、忍足みたいなトロくて暗くてモサい奴はタイプじゃないけどね」
「…知っとる」
「はぁ?お前ごときが俺の何を知ってるって言うの。ふざけんなよ」
「…すまん」
 俺の横暴な話に何の文句も言わず、ただ謝る忍足。ほんとつまんないなこいつ。
 ため息をついてベッドに寝転がる。忍足がビクリと反応したが気にせず目を瞑った。


「…幸村」
 ぼそりと忍足が名前を呼ぶ。返事をするのも面倒で目を瞑ったまま狸寝入りをした。隣でもぞもぞと忍足が動く気配がして、唇に柔らかいものが触れる。
 一気に不快な気分になった。起き上がり、驚いている忍足の頬を思いきり叩く。
「…なにしてんの」
「あ、すま」
「跡部が好きなくせに…!お前、なんなの」
「…すまん」
 忍足は跡部が好きで、俺は代わりみたいなものだ。それにイラついて暴力を振るうように乱暴に俺は忍足に接していて。セックスだってほぼ慣らさずにしているのに。
「気持ち悪い」
 好きな奴がいるくせに、他の奴にキスするなんて。
「おん、知っとる」
 自嘲気味に、俺に叩かれた頬を優しく優しく撫でながら笑った。愛しいものを撫でるように、優しくゆっくりと。
「……あと、べ」
 そして呟いたその名前は俺を苛立たせるのに充分だった。



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