※洛山火神









「大我」
 名前を呼ばれて、火神が顔を上げるとそこにはいつも通りに微笑む友人ーー赤司がいた。居眠りしても叩き起こされない限り起きないのに、赤司が声をかけるだけで火神は起きた。それは火神のクラスメイトたちが当初思っていた疑問だったが、今では「赤司だから」の一言で片付けてしまえる。それは彼が信頼を置かれている、ということにでもしておくといい。
 とにもかくにも赤司に呼び起こされた火神は腕をぐっと上に伸ばし、あくびをした。そんな火神の頭を赤司は自然に撫でる。これもいつものことだ。同じバスケ部に所属している彼らは、試合でもコンビネーションを発揮し仲の良い友人だ。
「大我、行くぞ」
「はいはい」
 火神はリュックから2つ弁当箱を取りだしさっさと歩く赤司の後を追いかける。部室棟の誰も使っていない空き部屋。そこで二人は毎日昼食を採っていた。
「ーーあ、赤司。ちゃんと食べろよブロッコリー」
「嫌いだ」
「お前な…」
 弁当箱の端にブロッコリーを避ける赤司に火神はムッと頬を膨らませた。元々好き嫌いが多い赤司だ、火神が工夫して弁当を作るようになってからは食べるようになったと思ったのだけれど。
「倒れられても困るんだよ」
「……じゃあ、口移し」
「はぁ?」
「それかあーん、でもいいけど」
 そもそも断られることなど元より考えていないらしい赤司はにっこりと微笑んで火神を見据えた。火神も火神で赤司に逆らえる訳もなくしぶしぶ、赤司の弁当箱のブロッコリーを箸で摘まんだ。
「何だ。口移しじゃないのか」
「…学校でんな事出来るか…!」
「それだと学校以外なら良いように聞こえるけど」
「あーもう黙って口開けろ!」
 真っ赤になって火神がそう言うと赤司は目を閉じて口を開ける。まるで餌付けをしているようだ、と思いながらブロッコリーを口に運ぼうと手を動かした。ああやっぱ綺麗な顔してる。俺なんかとは大違いだ。
「…大我?」
「あ、えっ、悪い」
「…むごっ」
 火神は思いきり赤司の口にブロッコリーを突っ込む。げほげほと噎せる赤司にまた慌てた火神は水を差し出した。
「…大我、お前」
「いや今のわざとじゃねーから!ちょっと慌てちまって…!!」
「言い訳を聞く気はない。今日の練習三倍、いや五…」
「いやいやいや死ぬから!!」
 恐ろしいことを淡々と口にする赤司をなんとか止めようとするが、ここまできて考えをやめさせるのは無理があった。焦る火神を横目に赤司はふっと微笑む。
「…夜は甘やかしてあげるから」
「…っ!!」
 そう赤司が耳元で囁くと火神はゆでダコのように顔を真っ赤にした。いつになっても初めてのような反応をする火神に愛しさを覚えながら赤司は頭を撫でてやった。並んでいれば頭に届かないが、座ればそこまで差はない。撫でられ慣れていない火神にとっては気恥ずかしいものでしかないのだが、赤司があんまりにも嬉しそうにするのでじっとしているしかなかった。







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