※帝光時代



 ごろり、と屋上で仰向けになればそこには青空が広がっていた。寝ぼけ眼でぼんやりと雲が見える。もう一度寝ようかと目を閉じかけたところ、視界の端に黄色が映った。最近よく見かけるそれは、これから騒がしくなると予告するようになっていた。それほどこの黄色とは最近よく出会うのだ。
「青峰っちー、またサボりっすか」
「…てめーもだろボケ」
「はは、そっすね」
 嬉しそうにふにゃっと笑う、こいつは最近一軍に上がってきた黄瀬ってやつだ。俺と1on1をしたがっていつも声をかけてくる。俺も結構本気でやって中々上手い。けどモデルだかなんだかやってるせいで練習は人より少ない。それでも一軍まで上がってきたのは才能だろう。
 相手をするのも面倒で横向きになると黄瀬が横に座った。ここにいる気らしい。まあ放っておけばどこかに行くだろう、と目を閉じて寝る体勢に入った。しかし眠れない。隣に黄瀬がいるからか、というか視線を感じる、ような。
「…黄瀬」
「え、あっ、はい!?」
「なにどもってんだよ」
 黄瀬の方を見ると顔を赤くしてまたふにゃっと笑った。その人に媚びるような笑顔が気に入らなくて頬をぐいっとつねる。いひゃいと涙目になりながら黄瀬は無理に外そうとしない。萎えて弾くように思いきり手を離してやった。
「いてーッスよ青峰っちー…」
「うっせ。てかその青峰っちって何だよ」
「俺認めた人は○○っちって呼ぶんス!」
 認めた、って何で上から目線なんだよコイツは。そういえばテツのことも、 レギュラーのやつらはそう呼んでたような。ため息をついて壁に寄りかかる。黄瀬も同じように壁に寄りかかって空を見上げた。
 さすがモデルなだけあって、睫毛長いしスタイルもいいし。普段うるさいが静かにしていれば目を疑うほどのイケメンだ。じっと見ているのが恥ずかしくなって目を逸らそうとした、がそれは黄瀬の手によって阻まれた。両手で頬を包まれ、真っ直ぐ黄瀬を見ることになる。黄瀬も真っ直ぐ俺のことを見ていて、照れ臭くなって視線を逸らした。
「こっち見てよ、青峰っち」
「な、んで」
「俺を見てよ」
 あまりにも切羽詰まった声で言うもんだから、仕方なく視線を黄瀬に戻す。頬を包まれていた両手は外されて、ずるずると首筋に降りていく。首筋を優しく撫でられても、不思議と嫌悪感は感じず黄瀬を見た。あー、やっぱり見てられねえ。このイケメンが。
「青峰っち」
「んだよ」
「……」
「う、わっ」
 急に首に顔を埋めたかと思うと、チクリと痛みが走った。どうやら黄瀬が何かしたようだ。すぐに離れた黄瀬を見上げると先程までのふにゃりとした笑顔なんかじゃなくて、口を吊り上げ見下すように笑いかける。いつもと違う様子に少し後ずさる、と言っても後ろは壁だから何の意味もない。が、黄瀬は俺に手を伸ばして、ゆっくりと髪を撫でた。突然の行動に呆気に取られていると黄瀬が急に吹き出す。
「アホみたいな顔してるッスよ青峰っち…!!」
「あ、うっせ。お前が急に噛みつきやがるからだろ」
「噛みつきーーうん、まぁそういうことッスね」
「は?」
 何か言いかけて黄瀬は何でもないッスよ、と笑う。どうせ大したことでもないんだろう。気にせず立ち上がった。じりじりと太陽が照りつける。丁度暑い時間に起きてしまったみたいだ。近くにいた黄瀬をどかして、日陰になっているところに移動する。それに黄瀬もついてきて、座ると黄瀬も隣に座った。
「…なんでついてくんだよ」
「俺もあちーッスもん」
 本心だか、なんだか分からないような言葉にため息をつく。まだ出会ってまもないとはいえ、やっぱりよく分からない。しばらく振り回されることになりそうだ。







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