部活が終わって部室で着替えているとき、隣にいた黒子から泊まりの約束を無理矢理された。別に黒子が泊まりに来るからといって何かあるわけでもないが多少強引に決められたそれに少し違和感を感じた。 「おじゃまします」 「どーぞ」 玄関でご丁寧に挨拶をして靴を揃える黒子。まぁ客人なんだから当然か、元々行儀のいい方だとは思うけど。 リビングで適当に座っててもらうことにして、俺は夕食作りに取りかかった。キッチンでエプロンを付けて何を作るか考える。一人増えたからといって何の問題もない。冷蔵庫にある食材で何かしら作れるだろう。 「火神くん」 「うぉわっ!?」 後ろを振り向くと黒子がいつも通りの無表情で立っていた。これにも慣れたもんだがやっぱり心臓にいいものではない。 「なんだよ急に…」 「火神くん、エプロンかわいいですね」 「え、ああこれ?タツヤにもらったんだよ」 黒い生地に所々ピンクでアクセントが入っていてオシャレなエプロンだ。どちらかといえば女物のようだが、せっかくプレゼントしてもらったから仕方なく使っているようなものだ。 「氷室さんですか…」 「どうかしたか?」 「いえ、何でも。何か手伝うことありますか?」 「あー、じゃあ…」 黒子の様子が少しおかしくて気になったが、気のせいだろうと黒子に指示を出した。 軽い野菜炒めと味噌汁が今日の夕食になった。黒子が手伝ってくれたおかげで一人で作るよりはスムーズに出来たし、黒子がいてくれてよかった。そしてプラス一品として、黒子がゆで卵を作ってくれた。 「ん、うまいな」 「ほんとですか?」 「おう」 ゆで卵って作る人によっても色々違うんだな、奥が深い。そう思いながらもぐもぐとゆで卵を食べる。相変わらず黒子は少食でご飯も少ししかよそっていない。 「お前それでよく足りるな」 「火神くんが食べ過ぎなだけじゃないですか」 そう言っていつのまに食べ終わったのか食器を持って立ち上がる。キッチンに行った黒子を見て俺もご飯をかきこんだ。 食器の片付けが終わり、ソファに座る黒子の隣に腰を下ろした。黒子はちらりと壁に掛けてある時計を見ると、リモコンを手にとってテレビの電源を入れた。 「っひ…!?」 画面には大きく不気味な女の姿が映る。どうやら丁度、視聴者から集めた怖い話を再現する番組が始まったらしい。隣に座る黒子を見ると、テレビを真っ直ぐ見つめていた。 「くろ、こ。これ見るのか?」 「はい。駄目ですか?」 「あー、いや、駄目っつーか…」 俺はこういう日本のホラーがどちらかといえば苦手だ。ただそれを黒子に言うのは尺だし、黒子が見たいなら別に邪魔しない。 「いいけど…じゃあ俺風呂入ってくるわ」 「火神くんは見ないんですか」 「いや、俺は…」 「せっかくですから見ましょうよ、ほらもう始まっちゃいましたし」 見ると一つめの心霊体験とかいうのが始まった。上げかけていた腰を無理矢理押さえられた。仕方なく黒子と番組を見るが既に嫌な雰囲気。ああ、日本のホラーのこういう雰囲気が苦手なんだ。 そして終盤に差し掛かり、主人公の男の後ろにいきなり女が現れた。 「…っ!!」 そしてその女はどこかへ消え、話は一度終わった。CMになり、気が抜けて息をつくと、隣の黒子がこちらをじっと見つめていることに気付いた。 「…なんだよ」 「火神くん、腕…」 「えっ、あ、うわっ」 いつのまにか黒子の腕辺りの服をつまんでいたらしい。恥ずかしくなって慌てて放すと黒子が吹き出した。 「な、んだよ…!」 「火神くん、可愛いですね」 そう言って微笑む黒子にときめいてしまって顔を背けると軽く肩を押されてソファーに押し倒される。油断していたためか黒子が額にキスをしてきた。それだけして起き上がると、「続きはこれが終わったら、で。」と呟いてまたCMが終わったらしいテレビを見始める。 キスされたところを撫でて、テレビに食いつく黒子に少しイラッとした。こいつはこういう番組が好きだったのか、と新たな一面を知れたけど。せっかく俺の家に泊まって二人きりなのに、なんだかこいつはテレビばかりだ。やっぱり風呂に入ろうと立ち上がると黒子がこちらを向いた。 「…お風呂ですか?」 「そうだけど」 「あの、もしかして僕何かーー」 「なんもねーよ」 心配そうに黒子が上目遣いでこちらを見るが、教えてやるのも尺でふいっと顔を背ける。 「ひぃっ…!?」 丁度テレビ画面には目を見開いた男のアップが映し出されていて、それに驚いてつい黒子に抱きついてしまった。気付いてすぐに立ち上がろうとして、背中に黒子の手が回されているのに気付く。 「…っ、黒子?」 「大丈夫ですか、火神くん」 子供をあやすように背中を撫でられ、何だか落ち着いた。安心して黒子の肩に顎を乗せる。 「…火神くん、好きです」 「ん、俺も」 ゆっくりと優しく撫でられる黒子の手に愛を感じながら、静かに静かに唇を重ねた。 |