広く広く、どこまでも続く白。踏めばざくり、と気持ちいい音を立てる。口から出る息さえも白く、この世界は白という色しかないのかと錯覚する。「高尾」
 ふいに名前を呼ばれ振り向くと、真っ白な世界に緑色がひとつ。気難しい顔をしてこちらを見ていた。こういう時くらい嬉しそうにすればいいのに。高校生といっても俺らはまだ子供だし、俺らのところでこんなたくさんの雪なんて、そうそう見れるもんじゃない。
「なに、真ちゃん」
「あまりはしゃぐなよ、部活のことも考えろ」
「そういう真ちゃんだってはしゃぎたいでしょ?意地張らなくていいのにさ」
「五月蝿い。意地を張ってなどいないのだよ」
 緑間はそっぽを向いてざくざくと音を立てながら歩き始めた。それに待てよ、と言いながらなんとかついていく。緑間は何も言わずに早足で歩く。
「真ちゃん、デートしようよ」
「どうしてそんなことをしなくてはならないのだよ」
「いいじゃん、ここ誰もいないし」
「そういう問題では…あ」
 ぐだぐたと何か言ってる緑間の手を掴んで勝手に歩き出す。こうでもしないと何も出来ないし、緑間も振り払わないことから嫌ではないらしい。と勝手に推測した。
「綺麗だね、真ちゃん」
「…ああ」
「ずっと、続けばいいのに。」
 ポロリ、とこぼれてしまった言葉。俺は一体何を言っているんだろう。そんなこと、あるはずがないのに。
「ずっとこんな風にいられる訳がないだろう」
「…わかってる」
 緑間は手を握り返してそう呟く。見るとやっぱり緑間は遠く向こうを見ていて表情が伺えなかった。
「やっぱりどうにもならないよね、男同士だし、どうせ俺も緑間も女と結婚して幸せな家庭を築くんだ」
「…それは」
「男同士ずっと一緒なんて、馬鹿なこと本気にしてないっつの」
「高尾」
「こんなの、子供のちょっとした気の迷いだって」
「っ、高尾!」
 思ってもない言葉が次々と口から出る。ただただ、ひたすら。
 それを無理やり止めるかのように、緑間はキスをした。すぐに離れた緑間の顔はひどく泣きそうな顔で。
「なんて顔してんだよ、真ちゃん」
「…うるさい」
 言いたいことはあるけど、不器用で言葉に出来ない真ちゃん。そこにいるのを確かめるかのように俺の頬を撫でる。今はこんなに優しくしてくれる真ちゃんもいつかは離れていってしまうんだろう。
「…真ちゃん」
「黙っていろ」
 将来どうなるかなんて分からない。だから、今だけ。






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