※パロディ


 ぼんやりと歩いていた。ただ目的もなく、お気に入りの本を持って歩いた。空は快晴、風もあって過ごしやすい気候だ。こんな日に部屋で本を読むのはさすがに不健康ではないかと思って出てきた訳だが、目的地もないのでただひたすら歩くしかなかった。
 普段使わないような道を通って、路地裏に入ってみる。少し古い家屋が並ぶ通りをゆっくりと歩いた。
 ふと、風が吹いた。そちらを見上げると赤い鳥居がある。どうやら神社のようだ。気付けば足がそちらに向いていた。

 鳥居をくぐると参道があり、小さな賽銭箱が見えた。参道は落ち葉ひとつ落ちていない。人が来ないのか手入れが行き届いているのかは分からないがきっと前者だろうと閑散とした境内を見て思った。せっかくだからと財布から小銭を出して拝んでおく。大した願い事もなかったので、欲しい本が見つかりますように。それだけ願って境内を見回した。本当に小さな神社だ。
 御守りの頒布所と、絵馬掛け。それに小さな池があった。池を覗くと立派な鯉が二匹泳いでいた。こんな小さな池でも悠々と泳いでいて、なんとなく笑みがこぼれる。
「その鯉、立派でしょう」
「えっ…」
 ふいに後ろから声をかけられる。振り返ると赤い髪が目立つ、袴を着た青年がいた。彼は微笑むと池の端にしゃがみこんで鯉のエサらしきものを池に撒いた。その姿をじっと見ていると急に青年が吹き出した。
「…何か付いてます?」
「あ、いえ。そういうのじゃないです…ごめんなさい」
「いいえ、お構い無く…何もないですがゆっくりしていってくださいね」
 どうやら見ていたのはバレていたらしい。そういえば自分は影が薄くあまり気付かれない方なのだが、先程も声をかけられた。いや、池の近くにいたからかもしれないが。
 もうしばらく居ようと近くの長椅子に腰かける。風が吹いて、日もそれなりに出てきたみたいだ。リュックから本を出して栞を挟んでおいたページを開く。その途端に風が吹いて栞が飛んでいってしまった。立ち上がると先程の彼が栞を持ってきてくれた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「お気をつけてくださいね」
 にこり。真っ直ぐ目を見て微笑まれた。その表情から何故か目が離せなくてつい栞ごと手を取ってしまう。そんなことをしても彼は予想通りとでも言うように動じない。僕もそこから何か動く訳でもなく真っ直ぐ目を合わせてくれる彼の目を見た。あ、睫毛が長い。
「あの、お名前ーー」
 ぼちゃん、と存外大きな音を立てて鯉が跳ねた。そんな音さえ聞こえないくらいに彼に夢中に、のめり込んでいた。彼の口が動く。




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