※パロディ




 ふっと目がついた。商店街の小さな花屋。こんなところに花屋なんてあったんだ、なんてぼんやり思いながら見ていると店主らしき青年と目があった。赤い髪に片目づつ色の違う綺麗な瞳。目を奪われていると彼は意地悪げに小さく微笑む。急に恥ずかしくなって軽く会釈をし、その場を後にした。

「タツヤ、商店街の花屋って知ってる?」
「…ああ、あの若い子がやってるところだろう?確か一ヶ月前からやってるよ」
「ふーん…」
 帰宅して、夕飯の準備をしながら同居人の兄に尋ねる。どうやら知らなかったのは俺だけらしい。
「あそこがどうかした?」
「いや、見かけたから気になっただけ。ほら、出来たから運んでくれ」
 本当に何か理由があるわけではないが、なんとなく話すのも嫌だったので適当に話を逸らす。ただでさえ兄のタツヤは過保護で何かするたび報告しろ報告しろ、とうるさいのだ。…そういえば、もうすぐタツヤの誕生日だ。とっておきの料理でもプレゼントしようかと思っていたが、花束のひとつでも付けてやろう。だなんて俺が作った料理を美味しそうに食べるタツヤを見ながら考えてほくそえんだ。

 いつものように商店街で夕飯の材料を買って、いつもと違って今日は花屋に向かった。入り口から入ってみると、色とりどりの花が並んでいた。あまりこういうものに詳しくないのでよく分からないが、見ていると癒されるような気がする。
「ーー何かお探しかな」
「え、あ」
 ゆっくりと花を見て回っていると、奥からこの間見た青年が出てきた。近くで見ると随分若い。もしかして俺よりも年下、それか同じくらいなんじゃないだろうか。彼は微笑むとガラスケースの中から小さなブーケを取り出した。それを彼はカウンターに持っていく。花が可愛らしくラッピングされるのをボーッと見ていると、そのブーケが目の前にあった。
「……え?」
「君はこの店に来るの、初めてだろう。細やかだがサービスのようなものだよ。受け取ってくれ」
「…お、おう?」
 大人しくそれを受け取って眺めてみる。赤いリボンにラッピングされた可愛らしいそれは、ゴツい男の俺には似合っているようには見えなかった。
「ーーで、誰かにプレゼントかな」
「よく分かったな、……です」
「ああ、いいよ。敬語なんて。君は僕と同い年だからね」
「えっ、マジ!?」
 若い若いとは思ってたけどまさか同い年だなんて。そのわりに落ち着いていて、確か店長?なんだよな。…ていうか、こいつに俺の年言ったっけ。
「改めて、この店の店主の赤司だ。お望み通りの花を用意してみせるよ」
「…じゃあ、赤司、さん。世話になってる兄にの誕生日に花束をあげてーんだけど…。俺じゃセンスとかねーし、任せたいんだ」
「分かった」
 そう一言、言い残し赤司さんは店の奧に消える。しばらく待つと何本かの綺麗な花を持ってきた。更にガラスケースの中の花も何本。店頭にある花も。それの動きの全てに迷いはなく、自分の行動に自信を持っているらしかった。花をまとめて、丁度赤司さんの顔を覆うくらいの大きさになった。最後にリボンでラッピングされ、どさりと俺の手の中に入った。
「……綺麗、だな」
「当然だろう。僕が選んだんだ。タツヤさんも喜ぶに違いない」
「おう、ありがとな!」
 代金を支払い、笑顔でそう礼を言うと赤司さんは優しく微笑んで店の前まで見送ってくれた。最初に見た時はなんとなく近づきがたい印象だったけど、案外優しい人で良かった。きっとタツヤも喜んでくれるだろうな、なんてわくわくしながら帰路を急いだ。
 ーーあれ、俺赤司さんにタツヤの名前教えたっけ?










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