ついうっかりうとうとして、真面目に聞いていなかった講義。結局頼みの綱のアルミンくんにざっくりと教えていただき、どうにか遅れを取り戻すことができた。さすがアルミンくん。やっぱり頭がいいなあ。お礼に夕食のパンを半分寄贈することにした。よだれだらだらで寄ってくるサシャのことは、当然無視しておく。ミカサちゃんにも軽くあしらわれているのにめげないもんだなあ。
なんてやりとりを見られていたらしい。いつもなら無関心なベルトルトくんが今にも泣きそうな顔をして私の前に現れた。一緒にごはん食べようよと誘うも断られ、地味にショックをうけていたら手をとられ、立たされ、そしてぐいぐい引っ張られる。いつもと違ってなんて大胆な!呆然とする私をちょっとした暗がりに連れ込んでしまった。本当に、なんと素早く積極的な動き。


「ええと、ベルトルトくん、私ごはんまだ食べ切ってないの…」
「ナマエ」


弱々しいのに、なんだかたしなめられるような声で名前を呼ばれ、私は口を噤む。影をおとすベルトルトくんの顔を見上げれば、案の定泣き出しそうな顔をしていた。何がそんなに嫌だったの。いつもなら何にも興味を示さないじゃないの。私がぽつりと呟いたら、そんなことないと否定された。


「どうして、僕に聞いてくれれば教えてあげたのに」
「エレンたちと喋ってたから、あの、邪魔しちゃ悪いかなあと思って」
「そんなことない」
「う、うんじゃあ今度からはベルトルトくんに頼むから」
「そうじゃなくて…」


うん?そうじゃないならなんなのだろう。困った顔をしたいのはこっちの方なのに、ベルトルトくんはますますしょげた顔をした。さながら大きな黒い犬のようだ。


「ナマエ、僕以外のひととあんまり、喋らないで」
「ふぁっ?!」
「他のひとといるのを見ると、おかしくなりそうなんだ」
「……ふぁっ?!」


驚きすぎて2回も変な叫び方をしてしまった。え、ええと?ベルトルトくん、あのまさか嫉妬が変な方向に行ってないかな。ヤンデレというやつか。ミカサちゃん的な。いやでもこれはそんな感じじゃないよね?ちっちゃい子がお姉ちゃんとられて嫉妬してるとかそんな感じよね?うん、それがしっくりくる。
無理に自分を納得させて、それは無理かな、と返事をしようとしたんだけども、なんとも悲痛な面持ちでその先を告げられる。


「僕だけをみて」


ベルトルトくん、あなたいつからそんな嫉妬深くなったのさ。いつもライナーくんの後ろで一言もしゃべらず無関心でいるあなたが!まさか、私ごときに独占欲まるだしにするなんて!どういうことなの!あまりにも突然のことにまたしても思考がおかしくなってしまい、爆発しそうになる。
目の前の大きな男の子を、少し呆れつつも見つめ返せば、今度は顔を赤くしてさっと目を背けてしまった。
お、お前が見てって言ったんだろ…?!


「ベルトルトくん、あなた結構理不尽ね」
「ご、ごめん。そこまで見つめられるとは思わなくて」


でも、うれしいな。
へらりと笑ったベルトルトくんに、はからずも胸がきゅんとしてしまった。ま、まずい。これではベルトルトくんの思うつぼだ。でもまずはヤンデレ気質というか、嫉妬深いところを矯正してからじゃないと安心して生活できない。きっとまだ軽度だろうから今のうちに。


「本当はナマエのこと、どこか小屋にでも閉じ込めておきたいんだけど」
「んん?」
「僕もまだ訓練兵なわけだし、今は我慢しておこうと思って」
「ん、……んん?」


にこにこへらへら、ベルトルトくんは空気を吸うよう、ごく自然になんかすごいことを言った。あれ、この子もしかして対エレンのミカサちゃんくらい病んでいらっしゃる?矯正は、もう無理なのかもしれない。


「それは、うん、いい気遣いね」


なんと返してよいやらわからず、とりあえず我慢してくれてありがとうという気持ちを込めて褒めてみたら、どうやら正解だったらしい。ふわふわ花でも飛ばすようにうれしがるベルトルトくんにそれ以上何も言えず、というか考えるのが面倒になったので、黙ってその手をとり食堂に戻ることにした。


怪物ちゃんまで徒歩で
130601


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