弄ぶ

「きみは将来有望そうだね、夏油くん。唾を付けてもいいかな?」

 そう言った先輩の術師に手を引かれ、向かった先は超が付く程の高級ホテル。……冥冥という術師に並ぶ程の守銭奴だと聞いていた彼女が、まさかこんなに金のかかるホテルに己を引き込むとは一切考えていなかった私は、ここに来て急に気が引けてしまった。
 何故なら、この人はこれだけの金を使う程に私に価値を見出していると、そう分かってしまったからだ。私はまだ高専に入学したてで、呪術界に足を踏み入れたばかりだというのに。確かに私は自分が弱いとは思っていないけれど、一級術師である彼女にここまで評価されるなんて想定外にも程がある。
 若干怖気付いてしまった私だが、彼女はそんな事はお構いなしらしい。先輩は私の腕に自分の腕を絡ませて、迷いなくホテルの室内へと足を踏み入れた。ああ、困ったな。ただ単に術師の先輩の、それも見た目が綺麗な人と遊ぼうとしていただけなのに。

「こわい? 今なら引き返したって構わないよ」
「怖くないのでこのままで構いません」

 腕を引く先輩が悪戯っ子の様な顔でそう言うものだから、ついムキになって食い気味に答えてしまった。ガキみたいな反応をしてしまった自分が愚かに思えて、どうにも決まりが悪い。熱を持ち始めた顔を彼女から隠す様に背けてみたけれど、結局そんな反応も子供の様で。
 焦りを隠しきれていない私を見てクスクスと上品に笑う先輩に、只々口を噤んで言い訳をすることすら出来なかった。今まで様々な女性と関係を持ってきていたし、先輩よりも年上の人との経験だってもちろんある。なのに、この人の醸し出す雰囲気のせいで冷静になれない。
 腕に添えられた手の細さも、押し付けられている胸の柔らかさも、仄かに香る官能的な香水と汗の混じった香りも、弓なりに細められた瞳も全部。全部、私の平常心を奪っていく。童貞でもあるまいに、どうしてこうなるんだ。

「シャワーを浴びてこようと思うんだけど……いっしょに入る?」
「な、ん……え、それは、その、せんぱい」
「ふふふ、冗談だよ。ココでいい子で待っててね」

 耳元で甘ったるく囁かれた言葉に、どうしようもなく動揺してしまって、ごくりと喉を鳴らして生唾を飲み込む。そんな風にあからさまに狼狽える私を優しくベッドに座らせた先輩は、頬に手を添えたかと思えば流れる様に額に唇を落としてきて。それに応えることも、抵抗することも出来なかった私は、サッと身を翻して浴室に向かった彼女を茫然と見つめるのみ。……すごく柔らかくって、いい匂いがした。
 先輩に口付けられた額が燃える様に熱くて、そこから全身に熱が伝播するかの様に体が熱くなっていく。絶対顔が赤くなっている、という自覚があった。
 あー、だの、うー、だの唸りたいけれど、シャワーを浴びている彼女に聞こえてしまうかもしれない、という疑念のせいで熱を発散する事も出来ない。彼女にキスされた額を手で抑え、ベッドに倒れ込んで息を吐き出す。無駄に寝心地のいいベッドが恨めしい。本当、私はどうして童貞みたいな反応をしているんだ。
 顰めっ面になって、どうしようもない気持ちを込めて部屋の天井を睨みつけた。これからあの人とこの心地良いベッドでセックスをするんだな、とか。高級ホテルのスイートルームでスるのは初めてだな、とか。……私ががっついたら、大人な彼女は呆れてしまうだろうか、なんて。初体験の男が考えそうな事がぐるぐると頭を巡る。
 こんなに余裕がなくなるのは初めての事で、どうすればいいか全くわからない。彼女が触れた額を両手で押さえながら、ゆっくり、ゆっくりと呼吸を整えた。せめて平常心ぐらいは保てる様にしなければ。……いつどんな風に女性を抱いていたかを、まずは思い出そう。
 私にキスを強請る人の腰を抱いて、焦らす様に触れるだけのキスをして、それから、私が完全に優位になるまで攻め続ける。あとはぐずぐずになった女体を隅々まで暴いて、貪り食うだけで……。
 …………そもそも先輩の優位に立てるビジョンが思い浮かばないな。今まで遊んできた人の中でも、先輩の様に余裕ぶった振る舞いの人は何人かいた。だけどその人たちも結局、私とセックスをしたがっていたから、最終的には媚びる様に鳴いていたのだ。でも、多分先輩はそう言う人たちとは違う……気がする。今から私とセックスをするのだろうけれど、それだけじゃないのでは、なんて根拠のない確信があった。
 そうやってぐるぐると考え込んでいると、ドライヤーの音が聞こえてきて、思わず目を見開いて身構える。どうしよう、もうすぐ彼女が戻ってくるぞ。早鐘を打つ心臓あたりの服を掴んで、どうにか顔の熱を覚まそうと手の甲を頬に当てた。だけどその程度でどうにかなるでもない。無駄な抵抗だ。
 ハリボテであっても冷静さを装う為にベッドの縁に座り直して、じぃと床に敷いてあるカーペットを無心で見つめる。これで落ち着けたらいいのだが、結局はバクバクと心臓の音がうるさいのに変わりなく。何もしていないのに勃ち上がっている自分の愚息に絶望した。堪らず下唇を噛み締める。
 もはやパニックになっていると言ってもいいだろう。さっきは先輩に怖くないと言ったけれど、本当は自分が自分じゃないみたいで怖かった。このまま彼女に触れてしまえばどうなるか分からない。

「夏油くん」

 気付けばドライヤーの音は消えていて、先輩の甘い声が私の耳に飛び込んできた。そしてそのまま耳たぶにちゅうと吸いつかれ、思わず喉から飛び出そうになった悲鳴を飲み込む。なんて事をするんだ。

「お風呂、入っておいで。広くてゆったりできるから、きもちいいよ」

 顎先から喉、鎖骨、肩。そして二の腕を通って肘から前腕、手首、手のひらへと。耳に唇を寄せながら私の体を丁寧に指先でなぞった先輩は、最後に耳にふぅと息を吹き込んだ。……今度こそ、我慢しきれなかった声が僅かに漏れ出た。
 腕に感じる先輩の熱と、柔らかな胸の感触。更にはベッド用の香水を付けているのか、部屋に入った時とは違う甘い香り。……こんなの、どうしろっていうんだ。頭がクラクラしてきた。

「それとも……お風呂に入らないで、このままシたい?」
「せ、せんぱい、まってくださ……」

 首筋に彼女の唇が触れる感覚がして、息をヒュッと吸い込む。だめだ、一回ぐらい抜いておかないと情け無いことになってしまう。既に頭を擡げている屹立は、きっと先輩に触れられるだけでも暴発するだろうから。
 先輩の体からどうにか腕を引き抜いて、ベッドから立ち上がる。その時、残念、なんて声が聞こえたが、聞こえなかったふりをした。
 出来るだけ視界に先輩の姿を捉えない様にしながら、浴室へと向かう。匂いと声だけでクラクラしてるのに、姿を見てしまえばどうなるか分かったもんじゃない。そう思って、見ないようにしていた、のに。

「ねえ、夏油くん。私のこと見てくれないの? 折角、きみのために全部綺麗にしてきたのに」

 砂糖菓子の様な甘い声がそう言うものだから、熱でグラつく視界のまま、ベッドに腰掛ける彼女を目に入れた。剥き出しになっている肉付きのいい脚。バスローブの合わせ目から覗く谷間。化粧をしていないから、どこかあどけなさの残る綺麗な顔。嫌になる程いい女だった。
 暫くぼーっと彼女を見つめ、その後我に返って逃げる様にして浴室に駆け込んだ。そして扉を背に、ずるずると床にしゃがみ込む。今までにないくらい動揺していた。だって、あの人がさっきまで私の腕に触れて、耳にキスをしていたのだ。それに、今からあの人を抱くんだぞ。
 ふらふらと立ち上がり、なんとか服を脱いでシャワーを浴びる。冷水にすれば少しは冷静になれるかと思ったけれど、ちっとも落ち着いてくれやしない。未だに勃ち上がっている分身に、情けなさを感じる。ほんと、童貞かよ。
 寝室にいる彼女に気取られない様に、声を押し殺して何度か欲を吐き出して、若干の倦怠感に包まれながらもどうにか身を清めた。今まで色々と遊んできたつもりだったけど、先輩には太刀打ちできる気が全くしない。
 脳裏に浮かぶ先輩の太ももや胸元の情景をどうにか隅に追いやって、備え付けられたバスローブに腕を通す。少し指先が震えている事に気付いて思わず自嘲した。これから先輩と身体を重ねるのだと思うと、初めての時以上に緊張感がある。遊び慣れている自信はあったけど、そんなちっぽけな自信は今ではもう粉々に砕けていた。
 彼女に出来るだけ緊張感を気取られない様、一度大きく深呼吸をしてから扉の前に立った。どうせとっくに私の怯えなんてバレているだろうけれど、なけなしのプライドの為だ。虚勢ぐらい張ったっていいだろう。

「おかえり、夏油くん。きもちよかった?」
「そ、れは……その……」

 そんな風に意気込んで、だけど私を出迎えるようにこちらを見て微笑んだ彼女の言葉に、一瞬で頭の中が真っ白になった。浴室で何をしていたのか、バレている。カッと顔に血がのぼった。

「ふふ、冗談だよ。からかってごめんね。だからそんな顔しないでこっちにおいで」
「……先輩は、ずるいひとですね」
「んー、それは違うかな。ずるい事をしたいのも、からかいたいのも、全部きみが相手だからだよ。他の人にはしないから。……それで、許してくれる?」

 赤くなっているであろう顔を隠す事すら出来ず、先輩が伸ばした手を受け入れた。頬を包む両手が少し冷たくて、火照った顔に丁度いい。
 ……もうそろそろ、頑張って取り繕うのを諦めた方がいいだろうか。ずっと彼女のペースに翻弄されていて、ちっとも平静でいられない。少ししか歳が違わないのに、どうして私だけこうも振り回される。

「まずは軽く腹ごしらえをしない? ルームサービスで持ってきてもらったんだ。本当はダメだけど、いくつかボトルもあるし」

 自然に絡まされた腕に引かれ、のろのろと食事が置かれているテーブルへと近付いた。そしてソファに座る様に誘導されて、大人しく腰を落とす。
 ……凄く美味しそうな夕食なんだろうけれど、目の前の情景に全く集中できなくて、目線をあちこちに飛ばしてしまう。だって先輩が当然と言いたげに私の隣に座って、こちらに身を寄せてきているのだ。
 食事の匂いよりも間近にいる先輩の甘い香りを嗅ぎ取ってしまって、また顔に熱が集まってくる。左腕に触れている柔い感覚も、私をからかって笑う声も、全部官能的で。

「ここのワイン、飲みやすくて美味しいの。担任の先生には内緒にしておいてね。私と夏油くんだけの秘密だよ?」
「は、はい……」
「…………かわいい。緊張してるんだね」

 そんなの、私の顔を見たら分かるだろうに、どうしてわざわざ言葉にするのか。本当にいじわるなひとだ。グラスを差し出しながら揶揄う様な顔付きで笑う先輩に、何も言えなくなって無言でワインを呷った。
 喉を通っていくワインは、きっと先輩の言う通り美味しいのだろう。だけど、味が全くわからない。それよりも、私にしなだれ掛かる先輩の身体の柔らかさの方が重大だ。時折、いたずらの様に指先を絡ませてくるものだから、どうすればいいかわからない。握り返した方がいいのか、それとも私も先輩に触れ返した方がいいのか。
 指の間を爪先で引っ掻かれ、人差し指をゆっくりと撫でさすられる。なんて事ない動きなのに、それさえも卑猥に思えてしまって手が震えた。この人は一体どこでこんな事を覚えたんだろう。先輩に色々と教え込んだ人間の影に、勝手に怒りが募る。

「夏油くん、食べないの? クラッカーとかも美味しいよ。ほら、あーん」
「あ……あーん……」
「……ふふ、凄くえっちでおっきい口だね」

 彼女の言葉に思わず咽せそうになった。なんて事を言うんだ。そんな事を言う先輩の方がよっぽどエロいのに、どうして私が。
 慌ててクラッカーをワインで流し込んで、先輩から目を逸らす。クラッカーの味も何もかもが分からない。刻一刻と迫ってきている、先輩と身体を重ねる瞬間を思うと、どうしようもなく鼓動が早まる。緊張で口の中が乾いて仕方ない。……先輩にいいところを見せたかったのに、ずっと格好悪いままだ。
 そんな事を考えながら口の中を潤す為にまたワインを飲んでいると、耳元で名前を囁かれた。背中に甘い痺れが走って肩が揺れる。彼女の顔を見るとどうにかなってしまいそうで、目線を下に落としたまま下唇を噛んだ。私が恥ずかしがっているのも、緊張してるのも全部わかっているくせに。意地悪な人だ。
 先輩の声に応えられずにただただソファの上で縮こまっていると、先輩の細っそりとした手が頬に添えられた。そしてゆっくりと彼女の方へと顔を向けさせられる。否応無しに先輩の肌が目に入って、それがまた身体を熱くさせた。きっと、凄く柔らかくて触り心地が良いんだろう。
 熱でぼんやりとしたまま、先輩を見つめる。すると、先輩の顔が徐々に近づいてきた。キスしてくれるんだと思って、つい反射的に目を瞑る。さっき額に触れた柔らかい唇と触れ合えるんだと、そう思って。……けど、先輩はキスをしてくれなかった。
 唇の端に熱くて湿った柔いものが這わされる感覚。パッと目を見開くと、少しだけ開いている口の間から舌を突き出している先輩の姿が飛び込んできて、喉から突拍子もない声が飛び出そうになった。色気があり過ぎやしないか。彼女の舌先にはクラッカーのクズが乗っかっていて、ああ、それを舐めとったんだな、なんて浮かれた頭のままでぼんやりと思う。

「夏油くんのキス待ち顔、凄くかわいいね」
「か、からかわないで、くださ、……」

 蠱惑的に微笑んだ先輩の顔がまた近づいてきて、今度こそ唇が重なり合った。ふわふわとした唇の感触に驚くと同時に、さっきよりも強くなった甘い香りに眩暈がしそうだ。
 何度も角度を変えながら触れるだけのキスが降ってきて、私はそれを受け止めるだけで既に精一杯。首元に腕を回して抱きついてくる先輩の体を抱き返す事も出来ずに、目をぎゅっと瞑って先輩の唇の柔らかさを堪能して、熱い息を漏らした。甘い香りと唇で感じる先輩の吐息だけで腰が砕けそうだ。キスだけでこんなになるなんて嘘だろう。
 そうは思ってみても、体に力が入らなくなったのには変わらない。唇が重なり合う度にずるずると体勢が崩れて、遂には先輩にソファに押し倒された。
 時折唇を喰んだり、チュ、とわざと立てられるリップノイズに息が上がる。もっと気持ちよくして欲しくなって、半ば無自覚に口を開いて先輩の舌を招き入れた。だけど先輩は舌先で唇に触れるだけで、ちっとも舌を絡み合わせてくれない。試しに私が先輩の舌に舌を絡めてみても、するりと逃げて唇を舐めるだけ。……何故もっと気持ちいいキスをしてくれないのだろう。
 どうしても気持ちよくなりたくて、先輩の口の中へと舌を挿し入れる。そのまま先輩の舌と絡み合おうとしたところで、舌の先を緩く歯で噛まれて動きを止められた。どこにも舌を動かせないし、なんなら少しだけ痛くて怯んでしまう。
 そんな私の心情を察したのか、私の舌を解放した先輩はねっとりと舌全体を重ね合わせた。そして、少し顔が離れていったかと思えば、舌先をジュッと吸い上げられる。突然与えられた強い刺激に、堪らず腰が震えた。

「ねえ夏油くん。イイ子に出来るよね?」

 息を乱して呆然としている私を見下ろして、先輩がサディスティックに笑った。
 それで。それで……。
 ふ、と目を開くと、先輩の可愛らしい顔が視界に飛び込んできた。目を細めて、愛らしく微笑みながら私を見つめている。

「おはよう、夏油くん。よく眠れたかな?」
「……お、おはようございます……?」

 彼女の言葉になんとなく返答をしたけれど、その実、現状をいまいち理解できていない。先輩に布団の中で抱き締められながら、頬を撫でられている事しか分かっていないのだ。
 先輩にされるがまま触れられて、けれどももっと撫でて欲しくて頬擦りしつつ、どうにか記憶を掘り起こす。……腹ごしらえと言った先輩に勧められてワインを飲んで、もうそこから記憶が曖昧だ。先輩にキスしてもらった事ぐらいしか覚えていない。
 こうなると、酔っ払ってしまったのは確実だろう。……酔った勢いで変な事を口走ってはいないだろうか。それに、先輩に無体を働いた可能性だってゼロじゃない。

「先輩、その……私、殆ど記憶が無くって……」
「ああ大丈夫。きみ、キスしたらすぐ寝ちゃったから何もシてないよ」
「そうだったんですか。良かった……」
「まあ元々するつもりは無かったからね」
「えっ……え?」

 何を言っているんだろう、この人は。
 唖然としながら先輩の顔を見つめるが、彼女は至って真面目な顔付きだった。昨日みたいに私をからかっている様な雰囲気は一切ない。
 そんな、あんな風に私を誘惑しておいて、セックスするつもりがなかった? じゃああのキスはなんなんだ。それに、バスローブだけを身に纏ってくっついてきたり、煽る様な事を言ったりしたのもどう言う事だ? 意味がわからない。全部揶揄っていたのか?

「行為をしてしまえばそれで終わりだろう? 私とのセックスは気持ちよかった、ってだけになる。ワンナイトかセフレかは分からないけれど、発展性の無い、替えの利く関係性に落ち着くことは想像に難くない」

 私の額にキスを落とした先輩が、にっこりと笑いながら言葉を続けた。

「でも私を抱けなかったらどうなるかな。きみは私の身体の味を知らないよね。素肌の触り心地も、私の感じている声も顔も、全部知らないだろ? 当然私とするセックスの気持ちよさだって知らない訳だ。……ねえ、想像してみてよ。私の身体を好きにしてるところ。キスなんか目じゃないぐらい気持ちいいだろうね。でもきみは私を抱けていない。凄くセックスをしたら気持ちいいだろうに、それができなかったんだ」

 どろどろとした甘い声が脳髄を揺さぶる。ここにきて漸く拙い人に目を付けられたと理解したけれど、もう遅い。思考がどろどろと溶けていって、目の前にいる先輩の事しか考えられなくなる。

「私とセックス、したいよね?」
「し、したい、です」
「ふふ……。じゃあ、どうすればいいか分かるかな?」

 内緒話をする様に声を潜めた先輩の吐息が耳に当たって、背中が震えた。昨日の気持ちよかったキスを思い出して、少しずつ息が乱れていく。
 ああ、こんな筈じゃなかったのに。

「先輩の、イイ子になります」

 震える声でそう絞り出した私の顔を見つめる先輩は、今までで一番嬉しそうな顔をしていた。



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