ジリリリリ!とあたしの耳元で目覚ましがけたたましく鳴った。あれ、たしかこの目覚まし高校の入学前ぐらいに壊れたんじゃなかったけ。まぁどうでもいいや。眠い、もうちょっと寝よう。再び布団に潜ろうとしたら突然布団をひっぺがされた。重い瞼を無理矢理押し上げるとぼやける視界には眩しい朝日と呆れたようなお母さんの顔。あらら?何か心なしかお母さんの顔が綺麗に見える。寝惚けてんのかな。目を何度か擦ってみたけどやっぱり変わらない。ん?てかあたしいつの間に家に帰ったんだろう?


「さっさと起きなさい!入学式から遅刻する気?」
「……は、?」


お母さんは溜め息をつくとあたしの部屋を出ていこうとする。え、ちょ、待って何言ってんのお母さん頭大丈夫?慌てて出ていこうとするお母さんの背中に「何言ってんの!?」と尋ねたらじと目をしたお母さんが振り返った。


「それはこっちの台詞。今日はあんたの中学の入学式でしょ」


呆然とするあたしを放置したままお母さんはさっさと出ていってしまった。…何かがおかしい。もしかして夢とか?考えながらベッドから出たら思いっきり足の小指をタンスの角にぶつけた。声にならない叫びを上げてうずくまる。あれ、痛い。痛い?痛いということは現実。ふと鏡を見てみればどう考えても高校3年生には見えない幼いあたしが映っていた。髪も短いし胸もまっ平ら。どこからどう見ても新中学1年生。どういうこっちゃ。


さっさとしなさい!と叫ぶお母さんの声に現実に引き戻され、慌てて用意を始める。懐かしい中学の制服に身を包む。しかしその制服はまっさらの新品で皺ひとつない。あたしが3年間でつけた皺や汚れが綺麗さっぱりなくなっている。やっぱりおかしい。









ゆっくり考える暇などなく、あたしは慌ただしく家を飛び出した。通い慣れたはずの道を走っているのにそこはまるであたしの知らない道のようで。でもやっぱりどこか懐かしさを帯びていて。あれ、こんなところに駄菓子屋なんてあったっけ。わからないことだらけだ。とりあえず今は入学式の方が先なのでひたすら走った。


一生懸命走った甲斐があってなんとか入学式には間に合った。クラス発表で群がっている生徒たちの間をふらふらと彷徨う。周りは知ってる顔なんだけどやっぱりみんな幼い。前方になんてまったく注意を払っていなかったあたしは誰かに衝突して激しく尻餅をついた。恨みをこめてぶつかった相手を睨もうとしたあたしは、ぶつかった相手を見た途端にそんなことも忘れて目を見開いた。


「すまん、大丈夫か?」


まだ変声期を終えていないであろう高い少年の声。色素の薄い髪。幼い顔立ち。あたしと変わらない身長。忘れるはずがない。差し出された手を掴むと彼は立ち上がらせてくれた。でもその腕は筋肉なんて全然ついていないので細くて頼りない。そして彼は目を細めて綺麗に微笑んだ。その笑顔はとても見慣れたものだった。


「俺は白石蔵ノ介や、よろしゅう」


ああ、もう間違いない。どうやらあたしは過去に来てしまったみたいだ。


(110423)


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